聖女の今後は貴公子次第・4
ユーグは一瞬複雑な表情をしたものの、問いを重ねる。
「それで彼女は幸せだろうか」
「幸せかどうか、私には分からん」
興味もないといった風情のエドモンドに、「さすがにそれはどうか」とタイアンが無言ではあるものの、顔に出す。
「ユーグは、自分の隣りにいることこそが幸せだと思える令嬢を妃にすればいい。私はコレがいい、それだけのことだ」
エドモンドの発言に、聞き返すような空気が流れたのは「コレ」に反応してかもしれない。
リリーはそう推しはかりつつ、坊ちゃまの「コレ」は少しも嫌ではなくむしろ嬉しいのに、皆にお伝えできないのを残念に思う。
名前なんて呼ばれるのは年に一回あるかないかで、呼ばれるとびっくりしちゃうくらいだ。
「命を救われて断れない彼女につけこむのはいかがなものであろうか」
あの洞窟のことなら、そこまで危機的状況ではなかったと声を大にして言いたいけれど、許される場面ではない。
本当に命を救われたのは、リリーがまだ小さな頃、とても寒い凍えるような冬の日だ。
エドモンドがコツッと机を指で打つ。これは「くだらない」だ。
ユーグ殿下は「王国から出たことのない田舎娘が、見目麗しい貴公子にポーッとなって、甘い言葉に騙されのこのこと公国までついて行き、飽きたら捨てられる」ことを、本気で心配してくれているとも分かる。
とリリーが考えているのは、まるっと坊ちゃまエドモンドに伝わったらしく、目元に不機嫌を滲ませて牽制が飛ぶ。これだから精神系の使い手、人並み外れて優秀な坊ちゃまは厄介。リリーは慌てて膝に目を落とした。
「これ以上、何を聞いたら満足する」
倦怠を全面に出したエドモンドに怯むことのないユーグ殿下は、やはり王子様だ。白馬を持っているか今度聞いてみよう、とリリーがスカートの皺を目でたどっていると。
「リリアン聖女に『エドモンド殿下のどこを好いているのか』と聞いたところ、『顔』と答えた」
とんでもない話が始まり、リリーはぎょっとして顔を上げた。
「へえ」と面白そうにタイアンが兄を眺める。
黙するエドモンドからは「何の話をしているのだ、お前は」と伝わってくる。
「だって……本当だもん。ウソじゃないもの」
目をそらして小さくリリーが口にしたのは、並んで座るウーズナムの耳に届いたようだ。
「公国一の貴公子ですから、それはそうでしょうとも」
とひそやかに慰められた。




