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聖女の今後は貴公子次第・3

 パチパチパチパチ。まばらな拍手は、賛成してくださったか、隣に座る紳士方だった。


ひとりは先ほど聖女派の方と名乗られた。もうお一方(ひとかた)は。


「失礼、私はウーズナムと申します。以後お見知りおきを」

リリーに向けて丁重に会釈する。


「ウーズナム」

 タイアンが小さく繰り返し、記憶をたぐる気配を漂わせた。どうやら聞き慣れない名前らしい。もちろん、リリーも知らぬ名だ。



「書記」

 ユーグが呼びかけ、しばらく席を外すよう求めた。戸惑いもそのままに顔を上げ下げする書記に、「この機会に非公式に確かめたい事がある」と告げる。


 いち早くエドモンドが「私は構わない」と応じ、「私もだ」とタイアンが同意する。

進行役が「沈黙は同意とみなして宜しいか」と全員に確かめてから、間を置いて、書記に退出を促した。


 一体何を始めるおつもりなのか。いつの間にかリリーの手の平には汗がにじむ。バッグからハンカチを出す雰囲気ではないので、仕方がない。汗染みにならないことを祈りつつ、さり気なくスカートで汗を拭った。



「これから耳にする事は、他言無用とする」

 ユーグが念を押す。口が固いのは出世の基本。それができるから、ここにいる方々が高位なのだとは、リリーでも知ることだ。


「エドモンド殿下にお尋ねしたい。ゆくゆくはリリアン聖女を妃にと望まれたのは、本気だろうか」


 ここでそれを聞く!? リリーの驚きは顔には出さなくても、勘のよい殿下方には伝わると思うのに、一顧だにされない。


「むろん」

エドモンドは平然としたものだ。


「――とても信じられぬ。会ったばかりの素性も定かではない娘を妃にしようとは。彼女が優秀で人柄も良いのは、私も認めるところではあるが、聖女といっても身分は形ばかり。力もなく資産も持たず、貴族としての教育も絶対的に足りない」 


 リリーの身につけている乏しい知識以外何も持たないと、遠慮なく指摘する。口の中に苦いものが広がるリリーとは裏腹に、エドモンドの貴公子然とした態度は変わらない。


「それで?」

またしても返すのは一言。


「妃として不足ばかりだと、殿下ほどの人物がわからぬはずはなかろう」

ぴしりと吐かれる正論は、リリーにとって耳が痛い。


「ユーグと私では、妃に求めるものが違う」

情感なく切り捨てる。


「社交界で、他国との交流で。他の貴婦人方と対等に渡り合えるわけがない」


 リリーには「彼女が哀れだ」と言っているように聞こえる。王子様がただ貶めているのではない、と理解した。


「そのような場に出なければいい。――出たいか」


 エドモンドにいきなり話を振られて、リリーは激しく首を横に振った。ダンスは上手く踊れないし、長時間お行儀よくしているのはとても疲れる。

 お出掛けする坊ちゃまのお支度を眺めてお見送りをし、後はお家で待つのが一番だ。


 それで、おじ様が「エドモンド様には内緒でございませすよ」なんて言って、甘いミルクに、大人の味わい憧れのコーヒーを少し垂らしてくれたら、もうなにも望むことはない。


「ならば、問題は無い」

つまらなそうにエドモンドは、視線をユーグに戻した。


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