聖女の今後は貴公子次第・2
軽く目を見開いたのは、タイアン、ユーグそしてリリーだ。
僅かばかり顎をひくエドモンドに、深く一礼して発言者が腰を下ろすと、静けさが部屋を支配した。
ここにも手は回してあったということか。ならば、これは出来レース? 出来レースの品の良い言い方をリリーは知らない。言いかえれば台本通り? これも上品には聞こえない。
考えの散らかるリリーとは違い、大人達の腹は決まったようだった。
「今日のところはここまでとし、結論は持ち帰っての後日」だ。
進行役もそう判断したと見たその時。
ユーグ殿下が前触れなく切り出した。
「リリアン嬢は、田舎から出て一年足らずで聖女にまでなった。ここのところの変化は急すぎると思う。彼女は物ではなく心がある。私達の言いなりに動かすのではなく、彼女の意見も聞くべきではなかろうか」
考え考え口にしたユーグ殿下に、リリーはハッとして背筋を伸ばした。
即応する者はない。進行役がエドモンドの意向を窺うように、顔を向ける。
エドモンドはちらりとリリーに視線を投げかけてから、進行役に頷いた。許可だ。受けて、進行役が厳かに告げる。
「リリアン聖女、ユーグ殿下の特別なお計らいにより、この場での発言を許可します。思うところがあれば、申し上げるように」
少しも音をたてないよう注意して、リリーは立ち上がった。間違えてはならない。予期せぬ出来事に緊張が高まったけれど、このくらいの方が判断を誤らないと、気持ちを落ち着かせる。
見事に精神系の使い手ばかりが卓についているここで、嘘はよほど巧妙につかねば、見破られてしまう。
それでも、人前でピアノを弾くよりずっといい。リリーは一呼吸して、口を開いた。
「聖人として認定してくださった国教派の皆様、そして拙い私に期待して後押ししてくださったユーグ・ベルナール殿下には、言葉にしきれないほど感謝いたしております」
お礼から始め一同を見渡すと、タイアン殿下が励ますように片目をつぶる。やめて、緊張感が途切れちゃう。リリーは、するっと受け流した。
「その上で、エドモンド・セレスト殿下が私を公国でのおつとめにお誘いくださいました事は、名誉なことと存じております。大役を果たすに私が相応しいかどうか心許ないのですが、神のお導きがあるのならば、謹んでお受けしたいと存じます」
これ以上きちんとは話せない。そして長くなればボロが出る。これでも「私史上最高丁寧」だ。リリーは「ご清聴ありがとうございました」の気持ちをこめて、ゆっくりと頭を下げた。




