聖女の今後は貴公子次第・1
大きな長机の一辺にエドモンドとタイアン両殿下が横並びに座り、向かい側にはユーグ殿下と国教派幹部。
窓際に置かれた椅子それぞれに、リリーと見知らぬ男性がふたり。
入口近くには書記らしき男性が小机に帳面を広げ、聞き漏らすまいと集中しているのが伝わる。
そして壮年の男性が進行役として、緊張の面持ちで直立していた。
「どうぞ、お始めください」
書記が小さく頭を下げるのを受け、壮年の男性が発声する。
「これより、大公家エドモンド・セレスト殿下よりの聖女派遣要請についての協議をおこないます」
リリーは膝の上でギュッと手を握りしめた。
予想と違わぬ展開で話し合いは進んでゆく。
「選ばれたばかりの聖女をすぐに国外へは出せません。聖女に相応しい振る舞いを身につけてからでなければ」
国教派幹部の主張にリリーは納得するばかりだが、エドモンドは唇の端に笑みを刻んだ。リリーにはわかる、これは良くない笑い方だ。
「実力と人品を重視し選定するのが、国教派の聖人認定と聞いている。選ばれたからには、高い能力を持った人格者であると考えていたが、それは私の解釈が誤っていたか」
ほら。端から仲良くする気がない、とリリーはこっそり息を逃した。
「なにも、今すぐ妃にしようと言うのではない。私はあくまでもリリアン聖女に対し『聖女として公国での布教活動』を要請している。もちろん、国教派から『聖女の弟子以外にも人を出せる』と言われるのなら、何人でもお越し願おう」
かかる費用はこちらで持つ、と付け加える。
「その費用は国から?」と聞いたのは、進行役。
「いや、エドモンドの個人資産からだ。それくらい、僕たちはおのおの持っている。王家がどうかは存じ上げないが、セレスト家は別生計だから」
タイアンが、そこは心配いらないと保証する。
「しかし、なにもない所からいきなり布教と言っても」
国教派幹部は懐疑的だ。
「――それならば」
エドモンドが半眼になり、またゆっくりと目蓋を持ち上げる。
「国境のレアード領に、教会を用意しよう。常識であり改めて言うまでもないが、レアード領はかつては王国だったことから、王国語を話す住民も多く行き来も盛んだ。国教派にも馴染みやすい土地柄と考える」
エドモンドが机を指で突き、コツッと音をたてる。
これまで聞くだけだった壁際の男性が挙手し、発言の許可を求めた。
「殿下方ならびに皆様。聖女派を代表いたしまして、総意を申し上げます」
そこで言葉を一旦切り、深々と一礼する。リリーは頭を下げたが、長机に座る方々は目礼を返すのみ。
「聖女派はこの件に関しまして、エドモンド・セレスト殿下の御意見を、成しうる限り尊重し、支持いたします」




