3つあったら選ぶのは真ん中・2
ユーグ殿下からも謝罪があった。「殿下は何も悪くないから、謝ってくれなくていい」ともっと丁寧な言い方でリリーが伝えても、殿下は固い表情を崩さない。
「いや、油断があった。聖女が我々同様狙われやすい存在であることを失念していた」
夜の移動にしては護衛が少ない、とリリーが感じたのは、確かだ。教派の幹部が参加していなかったので、警戒を怠った。そう思えば、軽々しく慰めを口にするのは憚られる。
「そなたが機転を利かせ、エドモンド殿下が身の危険を顧みず王国のために行動してくれたことで、迅速に事が運び我が国の恥をさらさずにすんだ」
王国のため? とは、聞き返さない。
「そなたには、私個人からも気持ちを形にしたいのだが」
ユーグ殿下の視線が手に巻かれた包帯にとまっている。リリーはさり気なく手を背中に回した。
つまり迷惑料。欲しい物はないかと聞かれて、すぐに首を横に振った。聖女になる前もなってからも、沢山沢山いただいている。欲しい物など、もう思いつかない――食べ頃の梨くらい。
「充分に頂いています。この後入り用なものは、私にはわかりませんし」
もういらないとは、言えない。なぜなら王家でないと入手できないものがあるから。
それに私は逃げただけで、賊をやっつけたのは坊ちゃまだ。リリーは遠慮がちに口にした。
「お礼をするなら、エドモンド・セレスト殿下では……」
「うむ」
ユーグ殿下の表情が変化する。開きかけた口を閉じる。
「なにか、ありましたか」
「ううむ……。『公国において国教派の教えを広めたい。よって、旗印としてリリアン聖女ならびに弟子のエリックの派遣を要請する』との正式な申し出があった」
「えっ!?」
「そなた知らぬのか」
「聞かされてない」
弟子のエリックまで込みとは、なおさら。
聞かされていなくても、理由の見当はつく。「聖女と婚姻を結びたい」と言っても、務めを果たしてからでなければと難色を示される。
何ごとにも例外はつきものだが、時間がかかるし、悪しき先例となりかねない。
国教派本部も王家も、すんなりと「どうぞ」とは言わないと思われる。
そこに第二案として「では、聖女として布教活動を公国でするのはいかがか」と提示すれば、どうか。
こちらが先だったら一蹴されるところを、先の案が突拍子もないことで、二つ目の案がとても常識的に感じられるはずだ。
第三案があるとすれば、馬車の支度を待つ間にタイアン殿下が言っていたあれ。
「エドモンドが公国を見限ってこっちで暮らすと言っている。王国の水が合うのか棘も丸くなったように思うんだよね。エドモンドがこっちに住むなら、僕も一軒持とうかな」
聞いてリリーは目がこぼれ落ちるかと思うほど驚いた。
この三案、この三つしかないなら、誰だって真ん中にすると思う。リリーから見ても落とし所はそこだ。




