殿下と殿下と王子様・3
それにしても、と話題をかえる。
「意外なのはグレイ公だ。自領に引き上げたと耳にしていたけれど、先日晩餐会で顔を合わせた」
タイアンが主催者として挙げた名はグレイ公と同じく力のある貴族だった。
「エドモンドが王国の聖女を見初め妃にと望んだらしいと、その席で噂話が出た。噂の出どころがどこかまでは、語られなかったけど」
ロバートも手を止めて聞いている。
「否定的な意見が勝るなか『平民に人気の高い殿下が他国の姫君と縁組みをしさらなる力をつける事が、良いかどうか。あまりに強力な後ろ盾は御兄弟の均衡を崩しかねない。その聖女の身辺に問題がなければ、後嗣殿下や国にとって悪くない縁談のように思える』と、グレイ公が踏み込んだ発言をした」
あくまでも私見だと断ってはいたけど、あの石頭が珍しい事を言い出すから、皆神妙に聞いてしまったよ。と、言い添える。
全く興味がない、または他人事のように聞き流すエドモンドに、さくっとタイアンが切り込む。
「今回の聖女誘拐騒ぎは、エドモンドの策?」
「馬鹿な」
「そう考えてもおかしくないだろう? 聖女派に恩を売った形だ」
なおも食い下がる。
ヤラセかと聞く弟に軽蔑しきった眼差しを向けたエドモンドが、ひとつ息を吐いた。
「私が計画するなら、不安要素を組み込みはしない。アレは自分で考えて動く、私には予測不能だ。そんな不確かなものを要に据えられるか」
「聖女認定計画は。あれは、あの子を中心にしたものだ」
「それも違う、オーツだ」
わかっていない、と続ける。
「『要』は実働ではなく、思考だ。大局的見地に立つには、アレは若すぎる」
「全体を見るなんて僕にもできないんだから、彼女にもできて欲しくはないな」
「お前はもう出来ていい」
にべもなく言われて、タイアンから苦笑が漏れた。
「そういうのは、向いていない。面倒事はできる限り避けたいんだ」
とりなすように、ロバートがコーヒーを注ぐ。しばしの間をおいて口を開いたのはエドモンドだった。
「それで、お前はいつ帰るのだ」
誰が聞いても「さっさと帰れ」と聞こえる。タイアンが女の子がするように小首を傾げた。
「それはエドモンド次第だね、一緒に帰るから。ひとりで帰って父と兄に煩く言われるのは、かなわない。――帰るんだろう?」
最後は少し不安の残る言い方に、「さあ、どうするか」と、エドモンドは口の端に笑みを浮かべた。




