殿下と殿下と王子様・2
リリーは王宮で出迎えたロバートに飛びついた。昔のように全体重をかけたりはしない。
「おじ様! どれも美味しかったわ、本当にいろいろありがとう――あの梨まだある?」
最後の一言はこれ以上ないくらい小さな声にしたのに、耳ざとく聞きつけたエドモンドが、ロバートより先に返事をする。
「そんな事を言ったら、食い意地の張ったお前のために、間違いなく、ロバートは畑ごと買い占めるな」
そんなはずはない。そこまでたくさんは食べられない……食べたいけど。坊ちゃまを無視して、「また食べたい」とねだる。
「ございますよ。後ほどお出ししましょう」
先にお湯をつかって少しお休みになってからにしましょう、と提案された。
逃げ込んだ洞窟でもしっかり寝てしまったが、おじ様には「いつでもどこでも寝られるガサツな子」と思われたくない。「怖さに震えながらお迎えを一心に待っていた」と思われたい。
「そうする」と素直に返して、リリーは「梨はあとでね」と念を押し、部屋を出た。
リリーと入れ違いにタイアンが入室したのは、誰かが様子を窺っていたのだろう。
「なぜ、お前が来た」
愛想のかけらもないエドモンドを気にする様子もなく、「僕にもコーヒーを」とロバートに言いつけたタイアンは、椅子を勧められないうちから勝手に座った。
「ベルナール家から父宛てに知らせが来た。『エドモンド殿下が、王国に移住する意思を表明されたが、それは大公も認められてのことか』と。それで驚いた父から『何が何でも連れ戻せ』と言われての非公式訪問だよ」
僕だってそんなの初耳だったから、本当に驚いた。
手のひらを見せて驚きぶりを表すタイアンを、エドモンドは冷淡にやり過ごす。
かわりにロバートが「そうでしょうとも」の気持ちをこめて、コーヒーを置きながら頷きを返した。
「非公式だから、王宮には招待されない。だから――」
タイアンが告げたのは街の一等地にある高級宿の名だった。元は王族の所有していた由緒ある館だ。
「で、昨晩ユーグと宿で面会予定だったのに、急遽延期の知らせが届いた。何ごとかと思えば『聖女がひとり行方不明らしい』――ファーガソンの早耳は王国においても変わらないんだから、大したものだよ」
エドモンドが問わず語りのひとり語りを止めないのをいい事に、タイアンは続ける。
「ピンと来てロバートに繋ぎをつけたら、やっぱり行方不明はあの子だって言うじゃないか。何かしら手伝うことがあるかと、僕も現地に向かったんだけどね」
黙って聞いていたエドモンドが冷笑する。
「面白そうだと、足を運んだだけだろう」
「ひどいね。僕だって知らない仲じゃないから、心配くらいする」
コーヒーの香りを楽しむように、ゆっくりと口に運んで言う。
「ベルナールの下につくなんて、まさか本気ではないよね?」
「父が『でまかせだ』と言ったか」
「『留学して外の空気を吸ったら、公国が堅苦しく感じるんだろう』と言っておいた」
タイアンは肯定も否定もしなかった。




