貴公子は聖女を泣かせる・2
失礼ながら荒事で役に立つとも思えないユーグ殿下を、エドモンド様が連れ出すのは、殿下本人ではなく殿下が動けば必ずついて来る近衛騎士が目当て。ロバートはそう推察した。
何が起こっているのか分からない以上、単騎で行動するのは無謀で、望ましくない。が、騎士団や警備隊などすぐに動かせるものではない。特に今は夜間だ。
ユーグ殿下の「気ままな行動」に近衛騎士が付き従う形が手っ取り早い。
雑囊はかなりの重さになった。必要ならば主エドモンドは異能を使うので、重さを考慮する必要がないのは、本当にありがたい。
ロバートはリリーの着替えまで詰め込むと、エドモンドの服一式と共に抱え、階下にいる主の元へと急いだ。
最上級の礼をとろうとするリュイソー聖女を、エドモンドは「不要だ」と手で制した。
「急ぎと言ったか。アレがどうした」
リュイソー聖女はカタカタと小刻みに震え、歯の根が合わないようながら、ぐっと拳を握り真っ直ぐに前を見据えた。
「男に連れ去られました」
なんとか一言、絞り出す。
「どこで」
驚く様子もなしに次の質問を投げかける。
「馬車に乗るまでは一緒でした。馭者が私を探していたのですが、リリアン聖女が『どこか様子が変だ』とおっしゃり、自分が代わりに乗ると……」
声を詰まらせるリュイソー聖女を眺めて、エドモンドがすっと目を細めた。聖女の震えがひどくなる。
「不在に気付いたのは、いつだ」
「四十分ほど前です。本部へ着きましたら、一番後ろを走っていた馬車が来ませんでした」
「他に同乗者は」
「リリアン聖女おひとりです」
「アレは、何か言っていたか」
見下ろす眼は冷ややかにも感じられる。
ぐっと息を飲むようにして、リュイソー聖女が気丈に述べる。
「『足の速さには自信があるから、隙を見て逃げ出す。お迎えをお願いします、と伝えて欲しい』と。『心配はいらない』とも」
エドモンドは表情を変えずに、腕組みをした。
「あのネックレスは」
「行きかけたリリアン聖女が戻っていらして『信じてもらえないといけないから』とお預け下さったものです。これをロバート・ケインズ様に見せるようにと」
「――ロバート、だと?」
一気に険しくなった顔で聞き返されて、こくこく、こくこくと何度も頷くリュイソー聖女の目には涙が浮かんでいる。
「『お迎えに来るのはおじ様だから』と」
切れ切れに伝える顔面は蒼白だ。
「――アレには、よく言って聞かせねばならんな」
間を置いて、微笑と共に優しげな声音を響かせる。
爛々と輝き出した金茶の瞳に気圧されたように、リュイソー聖女は顔を両手で覆い、その場にへたり込んだ。




