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貴公子は「人形」を部屋に持ち込む・3

 受け取った膝掛けを手に立つエドモンドにリリーが言い募った。

「坊ちゃま、本当に心配ないわ。すぐに朝だし教会は追い出したりしないもの」


 表情ひとつ変えないエドモンドが土に膝をつき、大判の膝掛けをぐるりと小さな体に巻きつける。


「坊ちゃま、前も言ったと思うけど、忘れたならまた言うわ。私、汚いの。坊ちゃまが触っちゃ、わわっ」


 有無を言わせずエドモンドがリリーを引き上げ、そのまま抱えた。


「坊ちゃま、やめて。離して」

「うるさい騒ぐな。人拐いと間違えられたらどうするのだ。黙って受け入れろ」


「人拐い」と聞いてリリーはピタリと動きを止めた。

もう抱っこされる歳じゃない、重くないのだろうか、と考えていると。


「己の体重の三倍までは支障がない」


 エドモンドがさらりと答える。私にも出来るだろうかと考えるリリーにあっさりと答えが返る。


「お前には無理だ。やめておけ」


 頭のてっぺんから包まれた状態でリリーはエドモンドの膝の上に置かれた。馬車が走り出す。


「隠し扉から入りますか」

家令ロバートが尋ねる。


「あんな汚い通路は命の危険でもない限り使わん」

冷たい視線がロバートへと向けられた。


「では、どのように。お部屋に入ってしまえば人払いで後はいかようにもなりますが」

馬車を降りて部屋までの通路が人目につく。


「このまま抱えて運ぶ」

「は!?」


 事も無げに言うエドモンドに、思わずという早さでロバートが聞き返す。


「ちょうど年末だ。人形か樹でも贈られたと思えば、ほどよい大きさだろう」


 ロバートが、エドモンドと膝掛け巻きにされたリリーとを交互に見比べて「さようですね」と諦め口調で呟く。


「部屋についたら湯にいれろ。これは凍えている。湯にいれなくては、近寄りもしなければ可愛げもないからな」


 ロバートに指示をし「寝ているのか」と、リリーの頭のありそうな位置の布を少しめくる。


「……泣いているのか」

「泣くくらいなら、さっさと鍵箱を開ければよいのに、いらぬ遠慮などするからだ」


エドモンドの声だけが馬車の内に広がる。


「泣いていないなら、その頬を転がり落ちる物は何だ。ガラス玉だとでも言うつもりか」


「ロバート」

呼ばれてロバートは内ポケットから小さなタオルを取り差し出した。リリーの「涙拭き」だ。


「拭いてやるから擦るんじゃない。……そろそろ止め方も覚えろ」


 リリーが何かしら抗議をしたらしく、エドモンドが低く笑う。

「それは聞いてやれんな」


 主従と小さな花売り娘を乗せた馬車は、今年最後の夜を離宮へと向かった。



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