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聖女は逃げ出した・2

 本日の予定を滞りなく終えた。ここから馬車での移動は三時間で、近いとはいえない。


 数台の馬車を連ねて移動するのは、安全確保のため。山賊が出るような道ではないので、護衛まではつかない。聖人の身分が高いなどと言っても、扱いはしょせんこんなものだ。


 ぼつぼつと馬車へと歩いて行く人のうちにリリーもいた。誰がどの馬車へ乗るかも大体決まっているらしい。



「リュイソー様は、どちらで?」

通る人に声を掛け、探している男性がいた。服装から見る限り馭者だ。


 リリーは、その馭者にどこかしら危ういものを感じた。「何とは言えないが」と言いたいところだが、手首のブレスレットが注意喚起しているだけのこと。

 リュイソー聖女の顔を知らないこの男が悪気を広く向けているのを、紅い石が感じ取ったのだろう。



 自分に向けられた悪意ではないと知りつつ、リリーは「私がリュイソーです」というように片手をあげた。


「馬車は、どこですか?」


 男が「こっちです」示した先にあったのは、何台も停まるうちで一番古めかしいものだった。


「わかりました。皆さんにご挨拶してから参ります」

気軽に「手荷物だけ先にお願いします」と預けると、心得顔で去った。 



 リリーはそのまま振り返った。途中からやり取りを聞いていたであろうリュイソーが、ひどく難しい表情で立ち止まる。その様子を見て、彼女もあの馭者に何かしら違和感を覚えたのだと知る。


 馬車のかえっこをしましょうと言えば、断わりはしないと思った。


「あの馬車に、私がリュイソー聖女として乗ります。聖女様は他の馬車に乗ってください」


 リリーの言葉に、無言のまま見事に左右対称の眉がひそめられる。


「あまり人には話しておりませんが、私は時々人の悪意を感じ取ります。今の馭者は聖女のお名を呼んだ時に、嫌な気配を漂わせました」


 ほんの少しリュイソー聖女が顎をひいた。手帖大の似顔絵カードを見て思ったが、聖女派の聖女でいるのは自分の外見を切り売りするようなものかものかもしれない。

 憧れも呼ぶが、好ましくない視線や邪な思いを向けられる事もありそうな気がする。そのあたり花売り娘と似通っていると言っては失礼が過ぎるけれど。


 それなら貴族の子女であるリュイソー聖女より自分の方が慣れている、とリリーは考えた。


「それでは、リリアン聖女が危ない目に合うかもしれません」

 あの馬車をやめるよう私から役員に頼みます、と言うリュイソーに「いいえ」と首を横にふる。


「まだ何も起こっていないのに、そんなワガママは通りません。根拠も示せないのに、人を疑うのも良くない」


 リュイソー聖女が無言になるのは、反対してではなく納得したから。リリーは自信有りげに述べた。


「私、実は体術が少しできます。走るのも女の子にしては速い方で、絶対にリュイソー聖女より速く走る自信があります。だから隙をついて逃げ出します。急襲してでも」


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