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聖女は逃げ出した・1

 聖女派の大聖堂は王都郊外にある。聖女派自治区内の本山をのぞけば、その大聖堂が一番規模が大きい。


 このたび国教派と聖女派が共同で行う儀式の前半は大聖堂で、後半は王都中心部にある国教派本部で行う予定で、リリーは他の国教派聖人と共に郊外へと出向いていた。


 聖女派の儀式は多い。次から次へとよくもまあこんなにあるものだと心底思うリリーは、今日理由のひとつを知った気がした。



 聖女派の大聖堂入口には厳かな建物に似つかわしくない売店があり、ひやかし半分でのぞいてみると。聖女関連商品がいくつも並んでいた。過去に人気のあった聖女のものなのか「聖女だれそれ様の生い立ちの記」とか、聖女様ご推奨のペンダント等が、目につきやすい場所を占めている。


 なかでもすごいと思ったのは、手帖大の聖女似顔絵カード。じっくりと眺めると、「不動の一番人気」と書いた札がついているのはリュイソー聖女だった。

 木版画に絵の具で簡単な着色をしたもののようだから、元手はほとんどかからない。作るのが修道女なら、ほぼ儲け。素晴らしい。お値段も教会を訪れた際の「ついで買い」にピッタリだ。


「いかがでございましょうか。お部屋の毎日見える所へ飾っていただけますと、『清い心で今日一日を過ごそう』と気持ちを新たにできますよ」


 リリーが新人聖女だと知らないらしい売り子に声をかけられ、おじ様のお土産にしようかと手を伸ばしたところで、「お集まりください」と呼ばれた。

 買うのは後回しだ。お仕事お仕事。リリーは足早にそちらへと向かった。




 本日の式次第を聞きながら、よそ事を考える。


 坊ちゃまは本日は正式な晩餐会。夜の正装姿が見られなくて本当に残念だ。おじ様と一緒にご用意するのを眺めるのは大好きな時間なのに。一緒に行くより置いていかれた方がいい。一緒だと自分も支度がいるから、ずっと眺めているわけにもいかない。



 今日夕方までは、この大聖堂。その後夜のうちに本部まで移動し、早朝から儀式の後半が執り行われる。


 聖女派の聖女達が、この儀式は時として神秘体験を引き起こす、と噂していた。神の御心に触れ涙を流す聖女もいるらしい。


 ほぼ徹夜となる疲れで幻を見るだけではと思ったが、本当だったら面白いと少し期待もしている。始まる前から気乗りしない――と言ってはいけないけれど――儀式は、これで乗り切れそうだと、リリーはさも聞いている風に頷いた。


 

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