ヒヨコは小鳩になりません・1
誰かの気まぐれか、でなければ聖女派の軽い嫌がらせか。
リュイソー聖女は硬い表情でそっぽを向いていたから本意ではないのだ、とリリーは様子を窺った。
他国より王国を訪れた要人をもてなすための、公爵家主催のガーデンパーティー。
そこで開始早々に王家を讃える歌を歌うことになっていたのは、歌の上手として名高いリュイソーだった。
なのに「新しく選ばれた聖女に華をもたせては?」などと進言する方があったらしい。公爵は乗り気になった。
リュイソーは「私が決めることではありません」と顔を強張らせて短く答えるのみ。
いくら聖女の身分が高いと言っても、位の高い貴族に提案されては無下にはできない。ここに招かれた新聖人はリリアンだけで、国教派幹部もいない。
もっと重要な問題ならリリーも勝手に決めたりはしないけれど、歌くらいで騒ぐのもいかがなものかと考えた。
「私でよければ」
返す隣りでリュイソーが唇を噛んでいるのが分かる。そんなに嫌なら譲らなければよかった話だ。私だって歌いたいわけじゃないと思いながら、リリーは彼女に向かって小さく頭を下げた。
ロバートが主エドモンドの驚く顔を見るのは久しぶりのこと。招待を受けたガーデンパーティーは公務ではなかったが、リリーが本部から派遣されるというので、出向いたものだ。
「どういうことだ。アレが王家賛歌を歌うように見えるが」
「はい」
挨拶をする公爵の隣りで、緊張感もなく立っているのはリリー。本来ならばいるはずのリュイソーの姿はない。
ということは、なんらかの事情により賛歌を歌う役がリュイソーからリリーへと変更された、と考えるのが妥当だろう。
「アレがまともに歌えるのは、校歌くらいのものだ」
エドモンドの表情が難しくなる。大っぴらに賛成するのは控えたが、ロバートも異論はない。
お嬢さんのお歌がとても可愛らしいのは本当でも、人に聞かせるとなれば話は別。リュイソー聖女が聖歌隊に所属し音楽教育を受けているのに対し、リリーは全くの素人だ。
「なぜ、あれほど平然としていられのかがわからない」
呆れを通り越し半ば感心しているエドモンドに、「ごもっともでございます」と、ここはロバートも同意した。秋だというのに掌にはじんわりと汗がにじむ。
「アレが歌うくらいなら、私が歌ったほうがまだ良いのではないか」
思いがけない事を言い出すエドモンドの本気度を横目で測りつつ「どうか、それだけは」と止めに入る。冗談にも程があると思うロバートの掌は、まさしく手に汗握る状態となっている。
「エドモンド様が王家賛歌をお歌いになるのは、問題がございます」
ここはなんとしてでも阻止せねばならない。セレスト一族がベルナール家を賛美するなど大問題だ。
それがリリーに恥をかかせたくない一心だとしても。




