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貴公子は「人形」を部屋に持ち込む・2

「カウントダウンパーティーとやらに何か意味はあるのか」


 エドモンドがうんざりとした顔でロバートに問いかけた。問い掛けの形を取ってはいるが、ただの文句である。


「こちらにご出席になりませんと、教会の聖祭にお出掛け頂くことになりました」


 正しく指摘をする家令ロバート。パーティーと聖祭、大公家の参加が欠かせない二つをエドモンドと弟殿下タイアンで分担した。先にパーティーを選んだのはエドモンド本人である。


「来年は聖祭にする。あちらの方がまだ時間が短い」


 しかし有り難くもつまらない説教を嫌ってパーティーにしたはず。ロバートの考えは口のなかで消えゆく。


 馬車はいつものように角を曲がり、いないとわかっているリリーの不在を確かめてから宮殿へと帰る。


「一度寄っておくか」


 エドモンドが口にする。ロバートはすぐに小窓をあけて隠れ家に寄るよう御者に伝えた。





 足が冷たい。前にもこんなことがあった。すごく前のような気がするけれど、この冬のことだ。


 壁一枚内側にある暖炉が恋しくて涙が出そうだなんて、ほんの少しの間に甘ったれたものだとリリーは自分を笑った。


 子供を甘やかすとダメな大人になるって聞くけど本当だ。大人になる前からダメになっている。


 顔の冷たいのは伏せたら少しはいいのか、とリリーは抱えた膝に顔を伏せた。





「なぜ中に入らない」


 聞きなれた声にリリーが顔をあげると、エドモンドが見下ろしていた。


 ミルクティー色の髪は綺麗な額を見せて整え、黒い外套にはホコリひとつない。銀色の持ち手のステッキもエドモンドの貴公子ぶりを際立たせる。


「坊ちゃま、どうしたの」

リリーは笑みを浮かべた。


「どうしたの、はお前の方だ。来たならなぜ中に入らない。火の気はなくとも、ここよりはマシだろう」


そんなことをしたら坊ちゃまが来ちゃう、とは口に出さない。


「――そんな風に笑うな」


顔が陰になって見えない坊ちゃまは、腹を立てているのかもしれない。


「もう少ししたら教会へ行くわ。その前に少し寄っただけなの。だから」


坊ちゃまが怖くて声が小さくなるのは許して欲しい、とリリーは願った。



「エドモンド様、ここは私が。エドモンド様は宮へお戻りに」


 後ろからロバートが声をかけるのをエドモンドが遮る。

「冷えきった部屋が暖まるには時間がかかる。明日はさすがにここへは来られん」


黙るロバートにエドモンドが重ねる。

「膝掛けを持ってこい。これを連れ帰る」

「宮へ、でございますか」

念の為というように、確認するロバートに若き主が言い放つ。


「早くしろ」



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