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貴公子はひよこの不在でご機嫌ななめ

まだリリーが温泉地にいる頃の話。


 エドモンドはウーズナム卿に会い、かつて最後の聖女が在籍した公国英知の使徒派とも繋がりを作った。ウーズナムは聖女であれば教派を問わず崇拝する男で、隣国国教派や聖女派にも人脈を築いていた。


 リリーを聖女として公国へ連れ帰るには、国教派が黙るような見返りがいる。国教派は公国に支部を持たないが、勢力拡大は望むところだ。


 国境に近いレアード領には、英知の使徒派が持つ無人の教会がある。そこを譲り受け国教派の支部とし、聖女リリアンを長に据える。聖女を引退したとしても、支援は継続する。それで説得できるとエドモンドは考えた。


 対立関係にある聖女派は、認定されたばかりの聖女がすぐに「純潔を失う」ことを非難するだろうが、そこはウーズナム経由で事前に献金する事で回避可能だ。国教派以上に懐具合が厳しいと聞く聖女派が、受け取らない訳が無い。



当初はその線で落とし所を探っていたが。


 リリー不在の生活は、エドモンドの予想以上に淡々としていた。元より感情は希薄だったが、リリーがいることで生活に彩りがあったのだと知った。

 アレならどう喜んだか。欲しがっただろうなどと、つい考えるのに嫌気がさした。


 今いる場所には暖炉があるのか。エリックでは世話が行き届かないに決まっているが、アレは貧しい生活に慣れており不平不満を口にしない。


お決まりの献立で朝食をとりながら、出たのが。


「公国にも飽いた。いっそ王国で暮らすか」


 アレは大公家の一員になることに腰が引けていたから、隣国で暮らすのもいい。公務もない。エドモンドの思いつきが現実味を帯びる。


「ロバート、お前はどうする」

「お供いたします」


視線の先の家令は即座に答え職務的な笑みを浮かべた。


「ケインズ家はエドモンド様と共にございますので」

「そこは『大公家と共に』だろう」


「ケインズ家は」と言うなら、一家で王国へ居を移すつもりらしい。


「使用人をおいても何かとご不便かと存じます」

私がおりませんと、という自負が見えた。



「王国は農業や牧畜が盛んだったな。アレは羊好きだ、羊でも飼って暮らすか。私の毛刈りの腕前は、牧童に『神技』と言われるほどだ。アレとお前を雇うくらいなんとでもなる」


 実際のところ持ち出し可能な資産と異能をもってすれば、不自由することはないのだが。オーツもついてくるかもしれない。


 微笑を返す家令にコーヒーを催促しつつ、王家の爵位売買を頭に浮かべる。買えばそのまま王家の収入となる上、身分絡みの面倒も減じる。



 聖女を連れて帰国する。王国で一貴族として生きる。

そのどちらも有りだとエドモンドは熱いコーヒーに口をつけた。


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