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貴公子はヒヨコをたくさん鳴かせたい

 連れ立って歩くのは目立つようで、途中すれ違う人は驚きを隠さない。坊ちゃまが気にかけないのは、見られ慣れているせいだろう。リリーは気になる。


 客室へ着くなり「湯を使うか?」と聞かれて、大きく首を横に振った。どうしてここで湯など使えると思うのか。


「髪が濡れちゃったら乾かないし、まだ夜会の途中だし。お着替えもないから、お泊りしない」


 何故と目で問う坊ちゃまに理由を述べると、口元にあるかなしかの微笑が刻まれた。少し悪いほう寄りと感じるのは気のせいじゃない、とリリーは密かに身構えた。


「お前は湯を使わねば懐かない。今も距離を置いている」


 警戒するのは、坊ちゃまから何かを企む気配が立ち上るからです。などと正直に言ったりしない。


「そんなことない。久しぶりにお会いした坊ちゃまが素敵すぎて困っちゃってるだけ」


 本当のことを言ったのに、エドモンドの手がリリーの両頬を挟んで潰した。口は三角に開いて、ひよこのようになっているに違いない。


「化粧と同じく世辞まで上手くなったか」


 お化粧は前から上手だったし「坊ちゃま素敵」はお世辞じゃないと言いたくても、潰れた口ではムグムグとしかできない。エドモンドが楽しげな目つきになった。


「ピヨピヨと言ってみろ」

隙間が少しだけできる。


「ぴよぴよ」


 は。と機嫌良さげになる。これくらいでいいならいくらでも、とリリーは調子に乗った。


「ぴよぴよ。ぴよぴよ……ぴよ」

「――お前はいくつになったのだ」


前にもこんな事があった。

「十九」

「――そうではない」


 わかっている。あまりに子供っぽいと言いたいことくらい。ひよこの鳴き真似をさせたのは坊ちゃまなのに、酷い話だ。おじ様がいたら叱ってもらうところだけれど、今は街のおうちにいて、ここにはいない。


 相変わらず坊ちゃまの手は滑らかで気持ちが良く、ほっぺをくりくりされたくなる。

昔は「乾燥がひどい。頬がひび割れている」と顔をしかめながらも、クリームを擦り込んでくれたものだ。


 また、されたい。リリーのそんな気持ちはお見通しらしく、くるりんと指先が頬に円を描いた。うっとりと目が閉じてしまいそうになる。



「さて、話はいくらでもあるが、まずはお前の好きな事をしてからだ」


 貴公子はそう言って、閉めた扉にちらりと視線を送った。


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