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貴公子は聖女を祝福する・2

 ダンスに誘われたら踊ってもいいと言われた。ただし品位を損なわない程度にだ。


 王宮の広間は、天井も壁も絵や彫刻で埋め尽くされているのに、さらに貴婦人のドレス、口元を隠すのに使われる扇が加わる。さながら色の洪水で、鮮やかな色合いはリリーの目を奪うには充分すぎる。



 ユーグ殿下は早々にいらして「ごく淡い色にして正解であったな。気になるところはないか」とドレスの出来を確かめ、「冬のドレスも同じ店で仕立ててやろう」と言い残して足早に去って行った。今夜はお忙しいようだ。


 本部から指示された通り必要な挨拶を済ませると「後はご随意に」と解放された。

 共にいた男性聖人は友人を見つけそちらに。母世代の聖女は「賑やかな場所は気おくれいたしますので」控え室に引き上げると、遠慮がちに口にする。


 さて、どうしよう。ダンスは楽しめるほど上手くないし、そもそも誘われなければひとりではできない。

少し休んでも差し支えないかと考えていた時、急に一点が気になった。


 呼ばれているような気がする。リリーがゆっくりゆっくりと身体ごとそちらを向くと、懐かしい方がそこに居た。



 ほぼ部屋の端と端。目立たないのは色の渦のなかだから? いいえ、輝きを本人が潜めているから。気配を消しているに等しい。異能にはこんな使い方もあったのだと知る。


 最後に見たときと全く変わらない端正な顔立ち。良い男ぶりは高まるばかりだ。ユーグ殿下をはじめとして王国の男性は青や深緑色などもお召しになるが、黒の夜会服が一等素敵だと思うのは、着る方が公国一の貴公子だからか。



 駆け寄っていいものか。今は知らんぷりをするべきなのか。

決めかねて立ちすくむリリーに「走るな」と、形良い唇が告げる。

つまり「走らなければ行っていい」。リリーが人の間をゆるりと進めば、坊ちゃまエドモンドは背中を向けた。


 これは「ついて来い」だ。見失わないよう、一心に背中を見つめて歩を進める。


 見ている人がいないわけではない。名高い公国一の貴公子に見惚れて、柱の陰から動かない貴婦人もいれば、紳士服の仕立ての違いが気になるのか食い入るように見る男性もいる。マナー上、セレスト家の殿下に話しかけられないだけだ。


 廊下へと出たところでリリーは坊ちゃまに追いついた。

 もちろん廊下にも人は少なくない。ふと気がついたというように、美しい身のこなしでエドモンド・セレストが振り返った。


「これは聖女リリアン様。このたびの聖人認定、お祝い申し上げます」


 自分が「ついて来い」と呼んだのに、まるでリリーがうかうかと追ってきたかの言いよう。

 いつになく丁寧な礼をとる坊ちゃまに、聖女にはそれだけの地位があるのだと改めて実感する。


「ありがとうございます。卿」


 お名前が分らなければ、とりあえず卿と呼んでおけと、ユーグ殿下に教えられた。間違っていても不快にはならないから、かまわないそうだ。

坊ちゃまから名乗ってくれない以上、こうするしかない。


「今夜は王子様とはご一緒ではなく、おひとりで?」


 ユーグ殿下を「王子様」と呼んでいる事をどこかで聞きつけて当てこすりを言う。

久しぶりに合ったのに、そんな坊ちゃまは。


「意地悪」

リリーが口角を下げて不平を言うと、坊ちゃまの片頬が上がった。


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