貴公子は「人形」を部屋に持ち込む・1
年末はここへは来ない。リリーは先に宣言した。
お金持ちは家を幾つも持っているもので、ここが坊ちゃまエドモンドとおじ様ロバートの本宅でないことくらい分かる。
年の変わり目は皆忙しい。家族や友人で集まるものだ。迷惑はかけられない。
母の客も年の最後には来たことがなかったのに、客ではなく友人として二人遊びに来て夜通し飲み明かすのだ、と聞かされたリリーは嫌な感じしかしなかった。
母は「行く所もないでしょう。居てもいいわ」と言ったけど、きっと酔ったら寝てしまう。知らない男の人と一緒に新しい年を迎えるのは、いい一年になりそうな気がしない。
「ちょうどいいわ、母さん。教会で手伝いをすれば食べさせてくれるから、今夜と明日は教会に行くわ」
リリーの言葉に母が賛成した。パンの残りは少ない。客のない年の変わり目に食べ物に困るのは、毎年のことだ。
「戻るときは、印を確認してからよ」
窓の外「来客中」の赤いリボンの事だ。
「分かってる、母さん。じゃあ行くね」
モタモタしていたら、客と鉢合わせして引き留められかねない。リリーは大急ぎで外へと出た。
さすがに年の最後の日は、薄暗がりで客を待つお姉さん達もいない。独身ならともかく奥さんのいる男の人は、こんな日には家にいるものだ。
いつものように元気よく通りを歩いて――とぼとぼと歩いては男の人に声をかけられてしまう――、坊ちゃまエドモンドの家まで来た。
植え込みの陰、通りから見えない場所に鍵箱はある。でも今日は触らないと決めている。
年末から数日はここへは来ないと、先に言ってある。エリックがいるからには、おじ様ロバートには奥様がいる。自分がここに来ていると分かったら、お休みのはずの年末がお仕事になってしまう。リリーは、鍵箱を横目で見た。
開けると二人には知らされる仕組みのようだ。
だから今日は触れない。そう決めて繁みの奥に腰をおろした。
睫毛まで凍りそうに寒いけど、星はびっくりするほど綺麗。お金が無くても見られる綺麗な物はある。
教会は夜中ずっと開いているから日が昇ってから行けば、パンと飲み物を配っているはず。
貧しくて行き場のない人は、この数日に何もかもが嫌になるのだと聞いた。
「大丈夫」リリーは口にしてみた。
まだ生きて行くのは嫌になっていない、だから大丈夫。
幸せに年を迎える誰の邪魔もしない。




