聖女認定のゆくえ・2
まず順位を知りたい。長くかかったのは審査会が揉めたからと考えるのが普通だ。
「何位だったと思うか」
「……三位?」
王子様呼び候補は金になる。そうお店同士で噂になったとしても、いかんせん時間が不足していたと思う。他にも商売の種になれば投票してくれる方はいただろうが、回りきれていない。
殿下がニヤリとする。
「そなたは謙虚であるな。驚くが良い――首位だ」
「えええっ!? すごく待たされたから、私が三位だと思った。それ、王子様がゴネて押し込んだのではなく?」
リリーの切れ長の目が丸くなるほど驚いたついでに、本音が出た。
「ゴネた? 下々はそのような言葉を使うのか。意味はおよそ分かるが、そなたは私を何だと思っているのだ」
軽く咎めるその顔は笑っている。
「首位のそなたと次の男はすぐに確定したのだが、三人認定するかどうかで揉めに揉めたのだ」
乱発しては聖人の価値が下がると主張する派、ここ数年該当者無しが続いたのだから出し惜しみするなという派に分かれた、と言う。
「三人目がシスターであることから、これまでの貢献を鑑み認める事でまとまった。史上初の三人同時認定だ」
聞いてリリーは、ほっとした。割り込んで誰かを押し出すのではなく、ひとり増えた形で決着するなら願ってもない。
何年聖女としてお勤めするかは、坊ちゃまにもお伺いを立てなければならないが、適齢期を過ぎた頃ひっそりと引退すれば国教派にもそうご迷惑はおかけしないと思う。
それまでは認めてくれた国教派と王子様の為にできるだけのことをしようと、決心した。
「聖女は――正しくは聖人だがそれはいい、一代限りの高位貴族のような地位だ。その前に開かぬ扉はない。利用しようとする者は聖職者も含めて、いくらでも出ようが、私が後見しているとこれだけ知れていれば、さほど心配はない。楽しみが増えたな、私の聖女」
紫の瞳は魅惑的な笑みに似つかわしい。
「これほどお世話になり、なんとお礼を申し上げればいいのか」
レースが終われば騎手と馬の関係も解消だと、別れの挨拶に入った。
「礼はいらぬ。そなたと違い私はただ楽しんだだけだ」
それでも。リリーは感謝の気持ちを瞳と、まだ繋いだままの指先にこめた。好きなのは金茶の瞳だけれど、紫も格別に美しい。王子様が手を握り返す。
「この後は行事、式典、行事行事だ。私が付き合えるところはつき合ってやろう」
え、子供じゃないからひとりで大丈夫。いらない。暇つぶしが終ったのになぜ、とは聞きにくい。
「次の聖女が認定されるまで、最大のアクセサリーはそなただ。せいぜい私の聖女だと見せつけるとしよう。そなたを飾り立てる事は、私を飾るのと同じことだ」
理解が及ばず、リリーは沈黙した。
「方方から届け物があるだろうが、受け取らずに返した方がよい相手もある。その判断はつくか?」
即座に首を横にふる。
「では、明日来て検分してやろう」
「――ありがとうございます」
明日? 明日も? いつまで? すっかり王子様のペースにのまれてしまっている。そしていまだに手は触れたままだ。
そういえば興奮して気にもしていなかったけれど、挨拶した時に手にキスをされなかったか。
坊ちゃまにもされたことないのに!
リリーの頭に白い紙が浮かぶ。
「そう思うならさっさと聖女になれ」
「なりました」と小さな声にする。王子様が「何と言った?」と問う。
「私、本当に聖女になりました」
公国まで届くはずもないけれど。リリーははっきりと口にした。




