聖人認定のゆくえ・1
話に聞くのはこう。
古式ゆかしい法衣の使者が、これまた絵物語から抜け出たような騎士を従え戸口に立つ。
使者が羊皮紙をひろげ「聖人と認められました」と告げて、ユリの花束を差し出す。それに「謹んでお受けいたします」と返せば、明日本部へ出向くよう要請を受ける。それが一連の流れだ。
審査会は朝から行われているのに、お昼を過ぎてもお使者が来ない。
リリーは平静を装いつつ、交互にくる期待と落胆に疲れ始めていた。
ここまで後押しを受けても駄目なのか。そんなことで来年通るのか。飽きっぽいと聞く「王子様」は、きっと来年まで付き合ってはくれない。
落選したら合わせる顔もないけれど、どう謝ってよいものか。
「ご心配には及びません。認められなくとも、奇跡の価値は変わりません。他にいくらでも代案はございます」
エドモンド様といられる方法は聖人認定だけではない。おじ様ロバートは手を握って、そう励ましてくれる。それでもリリーは生きた心地がしなかった。
とうとう敗者の弁が口をついて出た。
「皆様に多大なご支援を頂きましたのに、私が至らないばかりに、期待に応えることができませず――」
なぜか弁士風になるリリーをロバートが痛ましげに見守るなか、朝から外ばかり見ていたエリックが「来た! 来た来た!」と叫んだ。
正直、その後のことはよく覚えていない。
古めかしい装束のお使者が時代がかった仕草で巻物を読み上げたのに対し、ふわふわした気分のまま返事をし礼を述べ、気がつけばリリーは花を抱えて立っていた。
見守っていたご近所から拍手や声援が起こり、何度も何度も頭を下げる。エリックが皆さんにお礼を申し上げ頃合いをみて扉を閉めた。
「お嬢さん、よくぞここまで。頑張りましたね。聖人と認められました事、早速エドモンド様にお知らせしましょう」
おじ様のねぎらいも、どこか他人ごとのように感じる。エリックもする事があるらしく、それぞれ別の部屋へと散って行く。
ぼんやりとしたリリーだけが玄関に残された。
どれくらいたったか、通りに馬車の止まった音で我に返る。黒塗りの高級感のある馬車から、いつもの華やかな上着ではなく黒の上下を着たユーグ殿下が降り立った。
リリーは弾かれたように駆け寄って扉を大きく開け放った。
晴れやかで少し得意げな表情の王子様に「聖女になりました」と告げると、「存じておる」と可笑しそうにする。
そうだった、この方は選ぶ側だったのだと思い出す。
殿下は後ろ手に扉を閉めると大きな声で「やったな! そなたは聖女だ」と、ユリの花ごとリリーを抱え上げた。脚が宙に浮く。
「はい! 王子様のおかげです」
「いや、そなたの実力だ。私は少し手を貸したにすぎぬ」
くるりとひと回転してから降ろすと、王子様らしく気取った手付きで甲に口づけた。他人の家なのに自然にリリーを小間へと誘う。
手を取り合ったまま長椅子に並んで座った。聞きたいことは沢山ある。
「それで私は何位でしたか?」




