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赤い上着の王子様・2

 殿下がお召しの深紅の上着は、衿から裾にかけて金糸で刺繍が入っていて、とてもきらびやか。

 坊ちゃまはもちろんタイアン殿下も絶対に着ないと思うし、ユーグ殿下以外に似合う人は思いつかない。

坊ちゃまのお顔の綺麗さとはまた別の綺羅綺羅しさは、周囲がくすんで見えるほど。


 リリーは扉から顔を半分覗かせて、足を止めた。殿下が気が付き、半歩後ろに控える従者に聞く。


「聖女候補には、私から挨拶するのだったか? いや、あちらからであったか」


 返答を待たずに「まあ、よい」と切り上げ「気に入る靴はあったか」と、気さくに聞く。


「どれも見たことがないくらい素敵で、足にもぴったりで驚きました。心からお礼申し上げます。こんなに頂いてしまって、いいのでしょうか」


「そなたの足に合わせたのだ。戻されても行き場がない。靴屋も困るであろうよ」

明るく笑う。

「それで、なぜ顔を半分しか出さぬ」


 絵本にもないような王子様風殿下、特にその豪華な上着に気後れしていると、率直に告げていいものか。

「おそれ多くて」


 ふ、と笑ってユーグ殿下は「では、出掛けるとしようか」と口にした。リリーの発言は、今日も華麗に無視されるらしい。


「え」

たしかおじ様は「会いに来る」と言った。お茶は「必要に応じて」と言われたから、お出掛けのお誘いも想定済みだったのかもしれない。リリーはそこまで聞かされていないが。


「せっかくの新しい靴だ。履いて出掛けたいものであろう」


 二階からエリックが降りてこないのは「お茶は不要」とおじ様が止めているから。それは「お出掛けなさいませ」だと、リリーは正しく理解した。


「どこへお連れくださるのですか」

「そなたは田舎出と聞いた」


 話した覚えはないから、書類でもお読みになったか。


「王都には、顧客しか入れぬ店がいくつもある。案内してやろう」


 ちょっといいですか。発言を求めリリーは小さく挙手をした。


「お金持ちは、外回りの方がお宅に品々を持って来るものでは?」

「うむ。しかし店ごと持ってくるわけではない。品が限られるし、外に出掛ける方が面白い」


「服はこのままで、よろしいでしょうか」

一応お伺いを立てる。


 殿下のような服は持っていないし、そもそも張り合ってキラキラしていいかどうかも不明だ。


 上から下までシゲシゲと眺め、しばらくの沈黙を置いて「まあ、いいのではないか」と返された。 


 それの「まあ」は。合格なのか、かろうじて合格なのかどちらだろうと、ちょっと聞いてみたい気がした。


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