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困惑を呼ぶ贈り物・1

 優秀な家令ロバートは、いつになく困惑していた。

リリー宛に届いた室内用の靴、散歩用の靴、イブニングドレス用の靴、儀礼用の靴、ちょっとしたお出掛け用の靴は計十足。玄関横の小間は婦人靴で埋め尽くされた状態だ。


 主エドモンドでも、一度にこれほどの数を買った事はない。足を入れてみなければ分らないが、どれも寸法はリリーの足にぴったりに見える。知らぬ店の名であるが、箱からして高級品だ。


そして添えられた見事な一輪の白ユリの花とカード。



 ロバートが立ち尽くしていると、何やら楽しげに話しながらリリーとエリックが階段を降りてきた。


「おじ様、どうしたの? お靴をいっぱいひろげて。わぁ、見たこともないくらいキレイね。公国とは靴に対する考え方が違うみたい」


 リリーは無邪気に隣りまで来て目を丸くするが、エリックはどこか不穏なものを感じたらしく距離をおいている。我が息子ながら勘どころは悪くないと、ロバートは一呼吸した。




 先ほど呼び鈴がなり、ロバートが出ると配達人が大きな包みを抱えて立っていた。

「聖女候補リリアン様がいらっしゃるのは、こちらのお宅で間違いございませんか」


 受け取って開けてみれば、それは靴の山だった。靴より先に目についたのが大輪のユリの花。

薔薇と言えばセレスト家、ユリと言えばベルナール家だ。いやしかし、ユリは国教派を示す花でもある。考えすぎか。ロバートは頭を働かせた。


 リリーは生粋の王国人らしく振る舞う為の参考にと、エリックを連れて街に出て、王国の生活や風俗を実見するのに忙しくしているが、後から届けさせるような買い物をしてきたことはない。そもそもこの靴はいきなり買える品ではない。


 靴と言うなら。一週間ほど前に、リリーが出掛けて別の靴で戻った日があった。「ヒールが折れてしまって。ご親切な方が代わりにと、くださったの」とリリーは説明した。


「ではお礼を」と言えば、くりくりとした目で「おうちも聞かなかったし、もう会わないと思う。ちゃんと自分でお礼を言えたから、大丈夫」と返され、そのままにしてしまったが。




 今思えばあの可愛らしさはおかしかった。ロバートは、どこか居心地が悪そうにしているリリーを注視した。


「お嬢さん、これはすべて聖女候補リリアン様への贈り物だそうでございます」

「ええっっ!?」


 信じられないと何度も瞬きをするリリーに、ロバートは厳かに告げた。合わせてカードも差し出す。


「ユーグ・ベルナール殿下からの」


 ひょうっと音がしたのは、エリックが息を呑んだから。そしてリリーの目はわかりやすく泳いでいた。


 どうやってこんな大物を釣り上げたのか。まさか他にもおかしなご縁を作ってきたりはしていないかと、ロバートは疑いの眼をリリーへと向けた。


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