聖女候補は夜会で顔を売る・2
王国の夜会用ドレスは、公国のものより洗練されている。詳しくはないリリーにもそれは分かる。
胸元を広く開け、腰はできる限り細く見せてお尻は大きくふくらませる。なんだかなまめかしい。
そんなドレスも一度くらい試してみたいと思ったのに、今夜リリーの着ているドレスは、腕も衿元から胸へかけても透けはするものの布がある。
清楚と言えば清楚だが、野暮ったくもある。自分としては少々物足りなく感じながら、パーティーに連れて来てもらった。
リリー達に部屋を提供してくれた富豪には、ひっきりなしにパーティーのお誘いがある。
名家の家令であるロバートの知識とリリーの勘で、そのなかに認定審査会に出席すると思われる方を幾人か見つけた。
候補者それぞれに一長一短があったり、誰でもいいと考えていたら、人は面識がある方を推すだろう。
奇跡をその目で見たわけでもない方々は、聖人に相応しいかどうかを書面から判断するしかない。聖人候補として面識があれば、有利だと思う。
「パーティーに出掛けて、聖人候補として皆さんに覚えてもらいたい。そして『あの子を推してあげよう』と思われたい」と、リリーはおじ様ロバートに相談した。
「おそらくは、他の候補者も似たような活動をなさっているでしょう」とロバートは頷いた。
リリーの頼みを「聖人候補をエスコートできるとは、喜びです」と富豪が快く引き受けたのは、「連れて歩けば注目の的になり鼻が高い」と解釈するのが妥当だろう。
華やかなパーティーが数多く開かれ、退屈を嫌う貴族やお金持ちは夜毎遊び歩く。それが王国文化だ。
会場につくなり「こちらのリリアンさんは、我が家がお世話をする聖女候補です」と、紹介された。
聖女候補としては、初々しくしかも堂々として見えるよう振る舞いたいが、加減がなかなかに難しい。
オーツ先生直伝の「素顔美人に見える超絶作り込み化粧」で雰囲気を変えた。王都にいる間はこれでいく。
身長がもう少し欲しいと十五センチヒールを履こうとして、おじ様に危ないと止められた。仕方なく九センチで妥協したが、次はもう少し高い靴にしたい。
などと考えていたのに。
それどころではなく、やってしまった。
連れてきて下さった富豪に「お化粧をなおして参ります」と伝えて、リリーは話の輪から外れた。
ここまでにご挨拶した方は十人程度。そのなかに認定審査会に出席する方がいたかどうか。目的の相手はもう少しお年の多い方ではないかと、推測した。何を基準にと聞かれると困るけれど、権益は年嵩の人が握るものだから。




