聖女計画・2
書類審査でふるいにかけ、残った今年の聖人候補者は五名。
お年の多い男性が二人、リリーの親世代の女性がひとり、リリーと同世代の女の子がひとり、そしてリリアンだ。
本部で初めて顔を合わせた今日、その女の子の一言目が「変わった色の髪ね」だった。
そのままでは赤さが目立つと、少し染色したリリーの髪は、枯れ葉のような色だ。一般的に美しいとされる色ではないが、おじ様と合流してからはツヤツヤだ。
髪の手入れを怠るのはリリーの悪癖。
「お前がついていながら」
と叱るおじ様ロバートに、弟子を守るため果敢にもリリーは立ち向かった。
「田舎でそんなに綺麗にしてたら浮くわ、おじ様」
本当は面倒で手を抜きまくった結果だと、おじ様はもちろんエリックまで気がついている顔をしたけれど、そこは押し切った。
年の近いエリックに髪の手入れをさせるのは気が引ける。「ならば自分ですればいい」と言われるだろうが、髪に大した思い入れがない。
なので面と向かって「変な色の髪」と小馬鹿にされても、全く気にならない。そもそも元は色が違う。
リリーは返答に困った。「そうですか」も違うようだし、彼女は感想を述べただけで返事を欲っしていないような気もする。
沈黙をどうとったのか。親世代の女性が口を開いた。
「見た目について貶めるような言い方は、控えた方がよろしいかと思います。聖人を目指そうというなら、自分の心の揺れをひと様にぶつけては、いけませんよ」
優しく諭すと、女の子はあからさまにムッとした。
「そんなっ。見たままを言っただけよ。悪口じゃないわ」
即座に言い返すこの子は気がついていない。男性のひとりが、集中して皆を観察していると。
この方は聖人候補者じゃない。すでに聖人と呼ばれる方、でなければ熟練の調査員だ。考えるリリーに、男性の視線が移る。
「ご心配には及びません。気にしていませんので」という風に、にこりとしてリリーは軽く会釈した。見破ったと勘付かれなかったはずだ。
聖人はある意味国教派を代表する立場だ。認定について能力のほかは「人柄重視」とうたっているのに、それが頭からすっぽりと抜け落ちるようでは、不安視される。
全員が横一線で並んでいるとすれば、彼女は一歩後退した。これでリリーの勝率が上がる。
男女とりまぜ五人いて、若い女二人を選ぶことは、まず無いと思われる。さしあたり彼女よりはよい位置にいなければならない。
花市で花冠を売った時、一番売ったのは私だった。坊ちゃまが三日連続で来て買ってくれたのも大きかったけど、それも実力のうち。
学院女子の首席だったのも、私。三年生で取った剣術の授業は「女子ではひとりなのに参加をする、その心意気やよし」と評価され、実力に見合わない最高評価だった。それは剣術を選んだ私の作戦勝ち。
そして「学院寮一の酒豪」という称号も私のものだ。
なんだろう、急にワクワクしてきた、とリリーは膝の上で拳を握った。
今年の聖人が何人かはしらないが、そのうちの一枠は私が貰う。
勝ち気が外に溢れないように気を配りながら、リリーは涼しい顔を維持した。
来年までかかるのが大変とか、オーツ先生とまた一年楽しむのが嫌だとかではなく。この勝負に勝ちたい。
何のつもりで全員を集めたかは知らないが、私にはいい機会になった。と、リリーは候補者を見なおした。




