お弟子さまのお父さま・3
私を聖女にするのに、どれだけのお金がかるのだろう。恐れおののくリリーに対して、おじ様ロバートはいつもの余裕を取り戻している。
そして久しぶりに淹れてもらったお茶は香りからして違い、美味しさが胃にしみる。茶葉が旅行カバンから出てきたのにはびっくりしたけれど、他にもまだ驚くような物が入っている気がする。
「ここにいるって、どうして分かったの?」
一息ついて不思議に思うリリーに、微笑が返った。
「ラピスラズリでございます」
分るような分らないような。
「ここより先に少し大きな町があります。その規模になりますと、たいていは古物商を兼ねた質屋があるものです。念の為にと質屋を訪ねましたところ、お嬢さんのラピスラズリのチャームを見つけました」
なんとなく理解しつつあるリリーに、おじ様が言い添える。
「ああいった店は、盗品でないことを確かめようと、見慣れない客には手放す理由や入手場所を聞くものです。本当の事を話すとは限りませんから、気休めのようなものですが」
知らなかった。貧民街にも質屋はあったが、母さんとの暮らしは質入れする物がないほど貧しかったから。
ラピスラズリのチャームを人助けのつもりで買ってくれた泊まり客が、お金に換えたのだろう。
「そこで、この宿で働く私から買ったと話した人がいたのね」
さようです、とおじ様が頷いた。
「お嬢さんが少しでも手がかりをと、売って下さったことが良かったのです」
いえ、そんな深い考えはなく、ただ手持ちのお金を減らしたくなかっただけです。
とは言わずにおく。せっかく誉めてくれたのに、よい誤解をわざわざ解く必要なんてない。
「この後は、どうするの?」
「私が来ましたからには、十日とかけずに王都まで参ります。すでに途中途中で馬車を待機させてあります」
元気な馬を乗り継げば二週間もかからないらしい。お金の力ってすごい、と思ったのは今日何度目か。
「エリックの体調は、大丈夫?」
青ざめるほどの頭痛だ。馬車での移動でも、負担が大きいかもしれない。一日二日様子をみてからでも、十日でつくなら余裕がある。
「いえ」
にべもなく否定された。
「乗せてやるだけでも、有り難く思うべきです」
冷酷に言い捨てるさまは、おじ様には珍しいのにどこか懐かしく、少しだけ坊ちゃまを彷彿とさせる。
おじ様は私には優しくても、エリックには厳しい。父としては安堵しているはずなのに。キノコのせいで、悪くもないのに叱られているエリックの信頼回復には、どれくらいの時間がかかるのだろう。
リリーは気の毒なエリックに「何も手伝えないけど、がんばれ」と心の内で声援を送った。




