表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

395/560

お弟子さまのお父さま・3

 私を聖女にするのに、どれだけのお金がかるのだろう。恐れおののくリリーに対して、おじ様ロバートはいつもの余裕を取り戻している。


 そして久しぶりに淹れてもらったお茶は香りからして違い、美味しさが胃にしみる。茶葉が旅行カバンから出てきたのにはびっくりしたけれど、他にもまだ驚くような物が入っている気がする。



「ここにいるって、どうして分かったの?」


一息ついて不思議に思うリリーに、微笑が返った。


「ラピスラズリでございます」


分るような分らないような。


「ここより先に少し大きな町があります。その規模になりますと、たいていは古物商を兼ねた質屋があるものです。念の為にと質屋を訪ねましたところ、お嬢さんのラピスラズリのチャームを見つけました」


 なんとなく理解しつつあるリリーに、おじ様が言い添える。


「ああいった店は、盗品でないことを確かめようと、見慣れない客には手放す理由や入手場所を聞くものです。本当の事を話すとは限りませんから、気休めのようなものですが」  


 知らなかった。貧民街にも質屋はあったが、母さんとの暮らしは質入れする物がないほど貧しかったから。

ラピスラズリのチャームを人助けのつもりで買ってくれた泊まり客が、お金に換えたのだろう。



「そこで、この宿で働く私から買ったと話した人がいたのね」


さようです、とおじ様が頷いた。

「お嬢さんが少しでも手がかりをと、売って下さったことが良かったのです」 


 いえ、そんな深い考えはなく、ただ手持ちのお金を減らしたくなかっただけです。

とは言わずにおく。せっかく誉めてくれたのに、よい誤解をわざわざ解く必要なんてない。 



「この後は、どうするの?」

「私が来ましたからには、十日とかけずに王都まで参ります。すでに途中途中で馬車を待機させてあります」


 元気な馬を乗り継げば二週間もかからないらしい。お金の力ってすごい、と思ったのは今日何度目か。 


「エリックの体調は、大丈夫?」


 青ざめるほどの頭痛だ。馬車での移動でも、負担が大きいかもしれない。一日二日様子をみてからでも、十日でつくなら余裕がある。


「いえ」

にべもなく否定された。

「乗せてやるだけでも、有り難く思うべきです」


 冷酷に言い捨てるさまは、おじ様には珍しいのにどこか懐かしく、少しだけ坊ちゃまを彷彿とさせる。


 おじ様は私には優しくても、エリックには厳しい。父としては安堵しているはずなのに。キノコのせいで、悪くもないのに叱られているエリックの信頼回復には、どれくらいの時間がかかるのだろう。


 リリーは気の毒なエリックに「何も手伝えないけど、がんばれ」と心の内で声援を送った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ