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聖女(候補)リリアン・1

 国教派本部からの調査員は思うより早く、二月に入ってすぐにやって来た。


「途中まで船で来ました」と、まだ若い聖職者に言われて、リリーとエリックは言葉に詰まった。


 歌いながら「聖女リリアン」の功績をひろめているオーツ先生の努力がムダに……。いや、「ずっと船」じゃなくて「途中まで」と言われたし、帰りは陸路かもしれないしと、リリーは懸命に思考を修正した。



 早いのには理由があった。カメリアの実家は王都で娼館を営んでいるが、とても経営が安定している。客の大半が国教派の聖職者で、あとは騎士や警備兵らしい。


「聖職者って……その、いいの?」

さすがに「女を買って」とはリリーも言いづらい。カメリアは当然と頷いた。

「罪深いワタクシ達の懴悔を聞きに足をお運びくださってるのよ」

と澄ましていたから、いいんだろう。


 そこでカメリアのお母さんが世間話に「ウチの娘が、聖女様に入れ込んでずっとついて歩いている」と、誰彼なく話した。


 相手が興味を示せばしめたもの。そこから「温泉を発見した。隣りで娘が食堂を開く。地元の人も乗り気で、自己資金で小屋を建てる話も出ている」と続ける。極めつけは「町には教会がない」



 聖人認定は人気取りの側面がある。人気が欲しいのは勢力を拡大したいから。教会空白の地に聖女(候補)が現れて、地元で既に信仰の対象となっていると聞けば、半信半疑ながらも優先して確かめに来る。

とは、坊ちゃまの弁だが、その通りになった。


 

 今、カメリアの丸太食堂で対面している彼は、本部から来た調査員と名乗った。領主館ではなくこちらに着いたので、シュヴァルが馬をとばして呼びに来た。


挨拶を済ませ、向かい合わせに座る。


「身上を伺います。お答えいただくのは差し支えのない範囲でけっこうですので」


 感じよく言われてリリーは「はい」と答えた。対面して分かることがある。この方は公国なら精神系の使い手に分類されるが、王国なら「ただの勘のよい人」だ。嘘は注意深くつかねばならない。



 弟子を自認するエリックは「同じ村の出身」だ。エリックに異能が無いことが幸いしてか、嘘にかなりの真実味を持たせる才がある。

考えてみれば、おじ様も似たタイプだから家令職に求められる資質のひとつなのかもしれない。


「村はもうありません。リリアン様の家は焼けてしまいました」


 坊ちゃまの筋書き通りに答える。実際に森林火災で廃村になった地を、リリアンの出身地に設定した。とても小さな村で、皆他の村へと移ったから、実際に「リリアン」がそこにいたかを調べるのは、不可能に近い。


 エリックの声に合わせて、リリーが焼けた家の匂いを思い出せば、調査員は気の毒そうな顔つきになった。


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