貴公子は粛粛とゲームを進める・3
そうおっしゃると思いました、とエレノアが頷く。
「その男に会うには?」
「毎年二月か三月に、お友達の公都邸へ収穫高や税収の報告に来ますわ。よろしければ――」
繋ぎましょうかと尋ねるエレノアに、「頼む」と短く返す。
「なんだか楽しい事をなさっておいでですのね」
感想に返事は不要だろうと、エドモンドは手にしたグラスを空にした。
「礼は改めて」
「お構いなく。殿下が力を拡大するのは私の益にもなりますわ。――私の息子はまだ若すぎますもの」
レクター家はどこの派閥にも属していない。それはエレノアの才覚によるものだが、取り込もうと狙う貴族は多い。エドモンドが派閥を作るなら、「息子の代ではいずれ」という思いもあるのだろう。
エレノアにあわせてエドモンドも社交用の笑みを浮かべた。
「連絡はロバート宛でかまわない。――次の一手は」
トンと盤上にの一箇所を指の先で打つ。
「終わらせたいのなら、ここ」
また別の場所を示す。
「長く楽しみたいのなら、ここだ」
エレノアが目をパチリとさせた。
「思いつきもしませんでしたわ」
「謀などめぐらせたりしないだろうから、あなたは」
立ち上がるエドモンドに、エレノアも席を立つ。
「殿下、女には女の社交がありますわ。お役に立つと思われたら、いつでもお声掛けください」
「あなたにそれ程の事を言ってもらうほど、何かした覚えはないが」
正直に申し上げますなら、とエレノアが前置きを入れる。
「アレンは少々おとなしく育ちまして、親の私から見ると心もとないのです。殿下にお力を強めていただけたら、私の不安も減ろうというもの」
「あなたは、どうする」
デイドレスのエレノアが夜会に顔は出さないと承知で尋ねる。
「書き置きだけして、帰りますわ。馬車を待たせておりますし、他に用も出来ましたし」
予想した通りの言葉が返った。
「では、私はこれで。有意義だった」
エレノアの指を取り、軽く握って挨拶する。
部屋を出る背中に声が、かかる。
「殿下、どうせなら世間が驚くような事をなさってくださいましね」
エドモンドはステッキを軽く持ち上げると答えずに扉を閉めた。




