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貴公子は粛粛とゲームを進める・1

エドモンドはシガールームの扉をあけた。


「あら、こんなところでお会いするなんて。思いがけない事もあるものですわね」


 すぐにあがった声は、エレノア女伯爵のものだった。

息子が社交界に知られるようになった今、一線を退き篤志家としての活動に力を入れつつある。


「すっかり落ち着いてしまって」と本人は口にするが、まだ充分に艷やかで人目をひく。その彼女が、酒を片手にひとりボードゲームに興じていた。


「ここはシガールームでは」


 例年同じ時期にパーティーを開くこの邸宅に、エドモンドは遅れて着いた。案内を断り、ダンスは人が減ってからでよいと時間潰しにこの部屋へ来たら、どうも様子が違う。


 華やかな陶器が所狭しと飾られた部屋にひとりいたエレノアの顔がほころぶ。


「内装を変えるにあたり、ここは内々の女性用サロンになさったようですわ。殿方のお部屋は一階に集められたそうで」



 案内係に「知っている」と断ってここへ来た。おそらく彼はエレノアがこの部屋にいると知っていて、勝手に納得したのだろう。


「ひとりで、何を」

 ゲームテーブルを挟んだ向かいに座ると、エレノアが卓上の盤を示した。


「これ。子爵夫人がお友達とお手紙のやり取りで進めていらっしゃるのだけど、次の一手が難しいのですって」

「それで、呼ばれたのか」

「お昼に、別のお宅でお茶会をして、そのまま着いて来ましたの」


 淑女には女同士の付き合いがある。まだ息子に爵位を譲っておらず、息子に妻もない以上、エレノアが担うべき役割だ。



「殿下はおかわりのないご様子」


 そう見えるか、とエドモンドは僅かに片眉を上げた。ちらりと視界に入れたエレノアが、また盤上に視線を落とす。


「私のよく存じ上げる殿下ですわ。留学される前の」


 踊り子の後見をしているらしいとか、平民を囲っているとか、まことしやかな噂は彼女の耳にも当然届いているだろうに、おくびにも出さないところが賢さだ。

この辺りはリリーとは別種のものだ。



 シガールームへ行っても全く会話をしないわけにもいかない。ならばここでいいかと、エドモンドは椅子の背に身を預け脚を組んだ。


「お酒、いかがされます?」


 紳士が聞くのが通常だが、この邸の女主人であるかのようにエレノアが問う。


「頂こう」

少なくとも飲み干すまではここにいる、という意思表示になる。

 通常の倍量をグラスに注ぐエレノアの目に、茶目っ気が浮かぶ。



「しばらく前になるが、宗教会議の折に聖女と面会などは?」

「いいえ。興味はございませんし、その期間、公都は何かと騒がしゅうございましょう? 友人の別荘へ遊びに行っておりましたわ」


 答えてから、気になったのか「聖女がどうかされましたか」と続け、合点がいった表情に変化した。


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