ポーションではなくトニックです・3
それとは別に湿布も作っている。こちらは材料が入手しやすいので、いくらでも作ることができる。
エリックがいる時は、初めて使う人に貼り方をお教えしているので、主なお客さまは肩や膝の痛む年配の女性だ。「孫より優しい」と評判になっている。
材料費に少し上乗せして頂いているお代は、温泉の管理や春になったら建てるつもりの小屋の整備に使う予定だ。領主さまだけに、お金の工面をお願いするのは、心苦しい。少しでもお役に立てればと思っている。
「寒くない?」
調理場は火の気があるから、そこまでではないのに、エリックが心配する。
細やかに世話をやいてくれ、不自由のないように注意をはらってくれるのはおじ様みたい。当初は恋人だと思われていたが、あまりの献身ぶりに「聖女さまのお弟子さま」と呼ばれ、自他ともに認めるところ。なんと、最近ではエリックを拝む人もいるくらいだ。
「もうすぐ、今年も終わりだね」
柔らかな口調で言う。
「そうね。まさか、異国で新年を迎える事があるなんて、考えもしなかったわ」
年のかわる実感はないけれど、立派なお屋敷で迎えられることに感謝したい。
「僕じゃ頼りないと思うけど、来年もよろしく」
生真面目にエリックが言う。
「こちらこそ。いきなりオーツ先生やおじ様みたいになるのは、無理よ。私だって足りないところばっかりだもの」
「お互いさま」と言えば、エリックは軽く笑った。「暖炉の火をみてくるから、適度なところで切り上げて。お茶の支度をするよ」と出ていく。
こちらに来てから、「アイアが生き生きとしている」とオーツ先生に指摘された。
学院では、今までに経験したことのなかった身分差のあるお付き合いが難しく――主にマクドウェル様とそのご友人――、窮屈に感じたところも多々あった。
ずっと気が抜けなかったけれど、王国へ来てからは周りが平民ばかりで息をするのが楽だ。聖女になるという重圧がかかる以外は快適といえる。
「なんで、こうなっちゃったんだか」
分かっている。あまりに寒くていっそ凍え死んでもいいと思った日に、綺麗な天使様の手を取ってしまったから。
「つまりは、自分のせい」
母だって、あの生き方をしてあんな風に死にたかったはずもない。流れ流れて、少しはマシな岸に着きたいと足掻いたことはあっただろうか。
それにしても娼婦の娘が聖女とは。これ以上の皮肉があるものか。
きっと自嘲というものだろうこの顔は誰にも見せられない、と思いながらリリーは唇の端を上げた。




