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聖女計画は次の段階へと移行する

「さて、今後の予定について」


アンガス・オーツは、借家のテーブルに集まった一同を見渡した。


 宿屋では料理がしにくいので、空き家を一軒借りて拠点にした。今もシュヴァルの作った料理で夕食を終えて、一息ついたところだ。


「俺は、『聖女』の噂をひろめながら時間をかけて王都へ向かう。アイアが聖人認定をされるのは、順調なら来年の夏。お披露目は秋だ」


 オーツ先生は、旅をしながら「リリアンの奇跡」を吹聴してまわるらしい、歌手として。歌えると聞いたことはないが、できない事はなにひとつないのだろう。



 聖人認定の必要条件は「奇跡ふたつ」。では評判は不要かといえば、そうではない。

 見目で選ばれる聖女派に対し、実績重視の国教派では容姿に関しては分が悪い。そのため、いささか人気が劣るのは仕方のないところ。


 国教派は男性聖人も含め「人柄の良さ」を強調するが、見た目に美しいものは人を引きつける。オーツ先生があげた例は「くたびれた男と清楚な娘のどっちを拝みたいかだ」と、極端なものだった。



「今、聖女派を代表するのは聖女リュイソーだけど、リリアンなら負けてないわよ」


 カメリアがきっぱりと言い切るのは身びいきだと思う。

 今年の候補者に美女がいるかもしれない。オーツ先生直伝のお化粧術を駆使すれば顔は互角に戦えるとして、学院でもちょうど真ん中だった背はいかんともし難い。

 踵の高い靴を履こうかなどとリリーが考えていると、カメリアが続けた。


「私はシュヴァルと一緒にひとつ目の温泉の隣りで、食堂をひらくわ。実家に応援を頼んだから丸太小屋ならすぐに建つし、年内には形になるはずよ」



 見張っておかないと、手柄を横取りされたり、独占する輩が出てくるかもしれない。腐った奴はどこにもいるものだ。

などと平然と言うカメリアの実家は娼館だ。


「聖職者なんて、澄ました顔してるけど、脱げば下はみな同じよ」とフフンと笑っていた事もある。

リリーとはまた別の場末を知っている口ぶりだった。


「その食堂、採算は取れるの?」

「心配はいらないわ。私とシュヴァルの頂く賃金とは別に、これはうちの商売としてするものよ。聖女リリアンの湯として名が上がれば、儲けは出る。ゆくゆくは夫婦者にでも譲るつもりよ。うちは賃料だけもらえればいいわ」


隣りでシュヴァルも妥当なところだと頷く。



 マルコムは。

「もうしばらく湯量と温度をみてから、ケインズ様に報告をしに国へと帰ります」


 居場所を知られないよう、公国との行き来は控えている。手紙のやり取りもしていない。だから今、坊ちゃまやおじ様がどうしているか、まるで分からない。


「エリックは帰らなくていいの?」

「冗談じゃない。リリーをひとりにしたら、家が潰れる」


 エリックがいつになく憤然と口にする。坊ちゃまは暴君じゃないからそんな事はしないのに、出掛けの冗談が過ぎたようだ。



「アイア、ネックレスがはみ出てる」


 言いながらオーツ先生が手を伸ばし、衿の内側へと押し込んでくれた。


「逃走資金だから、大事にしないと」

にやりと笑う。

「逃走などとおっしゃるの、止めて頂けませんか」

エリックが露骨に嫌がる。


 ラピスラズリのチャームがいくつもついたネックレスは、そこまで高価なものではない。田舎ではエメラルドやルビーは高すぎて買い手がない。その点ラピスラズリなら、手頃だ。

「金に困ったら、ひとつずつ売れ」と、公国を離れるときに坊ちゃまに貰った。



 ここからは皆それぞれ。リリーはといえば、この一帯を領主の代わりに管理する方が「ぜひ当家へご滞在を」と誘ってくださった。その申し出を受けるつもりだ。


 春には王都へ行きたいから、それまでご厚意に甘えるつもりだ。その間にしたいこともあるし。


 みんなの為にも聖女として認めてもらわなければ。リリーは決意を新たにした。


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