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行儀見習いは「抗う」を選択する・4

 扉がひらく。リリーは速やかに腰を下ろし「ずっと座ってました」とばかりに、すまし顔を作った。


「リリー、入るよ」


 ノックの方が遅いんじゃ。気の焦りが出た声の主はエリックだった。この春から執事や侍従の仕事を学ぶ為に典礼部を辞して、しばらくはおじ様の元で働くと聞いている。



「エリック」

「不安にさせてごめん。これでも急いで来たんだけど」


 謝られた。不安というより、迷いが生じてとりあえずここから出ようとしていたとは、言えない。エリックが精神系の使い手でなくてよかったと、リリーは胸をなでおろした。


 廊下からマルコムが顔を覗かせた。

「では、僕はこれで一旦失礼します。準備を整えて、あちらに向かいますので」

「知らせてくださったこと、感謝致します。――僕が着くのは、明後日になると思う」


 リリーには意味不明なやり取りを済ませると、マルコムは挨拶もそこそこに帰って行った。


「さ、僕達も行こう」


差し出された手をつかみ立ち上がって聞く。

「どこに」

「隠れ家だよ」


 エリックが勇気づけるように浮かべた微笑は、おじ様ロバートとよく似ていた。










 リリーが街なかの「隠れ家」に行くのは、十二の頃以来。鍵箱の内には、ちゃんと鍵があり、リリーが開けて入った。


「ここは把握されてない」

安心してと、エリックが言う。

「この後は?」

先の展開が読めない。


 ここに来ていなければ、監視を引き連れて寮に戻り、荷物をまとめて。明日の朝、指定された場所から馬車にのり山奥の修道院へ「しばらく」行くはずだった。



「それを説明するのは、僕じゃないから。先に仕事を済ませるよ、リリーは座ってて」

浴室に向かうエリックの背中に声をかける。

「私もなにか手伝う?」

「いや、いい。僕の仕事だ」


 今夜はここで過ごすのだろう。リリーはぐるりと部屋を見回した。記憶にあるのとそのまま、どれも位置すら変わっていない。


 留守の間も手入れはされていたらしく、まるで昨日もここにいたかのように、掃除も行き届いている。


 壁際にあるのは、坊ちゃまに遊んでもらったゲームと本だ。子供の頃は楽しいばかりで、よく「遊ぼう」とせがんだものだ。今となれば、よく子供の相手など飽きずにしてくれたものだと感心する。あの坊ちゃまが。



 そういえば門番のおばさんとも、きちんとご挨拶しないままになっている。お元気だろうか。大人になったからわかるけれど、貸部屋の大家さんは坊ちゃまだと思う。


 トムのおばさんは、卒業した後に挨拶に行ったら、泣いて喜んでくれた。市場も人の入れ替わりがあって、皆が皆いたわけじゃないけれど、温かく迎えてくれた。


 少し大人になると、物の見かたも取りようも変化するものなのだと、リリーがしみじみ感じ入っていると。


エリックが戻ってきた。


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