行儀見習いは「抗う」を選択する・1
学院を卒業して一月。
学院の専科進学と軍学校で迷った結果、オーツ先生の熱心な誘いもあってリリーは専科に進学した。
予定通り軍学校に進学したジャスパーとは、寮で別れたきり会っていない。
カミラはスコットのお父さんに推薦してもらって、公証人事務所で働いている。寮で寝起きしていた時のように毎日は会えない。卒業してからは、一度も顔を見ていないし手紙のやり取りもしていないけれど、元気だと思う。
リリーだけが、続けて寮で生活していた。制服はさすがに着ていないが、グレーだった上着を紺色にして、毎日上下紺の装いだ。考えなくていいのが楽だから。
専科生は研究助手や講師の手伝いのような立場で、広く深い知識が得られる。小間使いのようなお仕事も挟まれるが、それは嫌じゃない。
というわけで、今日は学院のお遣いで公都にある文教部まで書類を届けに来たら、思わぬ状況となった。
用があるのは文教部であるはずなのに、待ち受けていたのは典礼部所属の、名乗られはしなかったがおそらく貴族。
ふたりきりの部屋のなか、中年紳士は平民に対してとは思えない不必要なほど丁寧な語り口で、噛んで含めるように言い聞かせた。
「このくらい言わないと理解のできない程度の頭だ」と思っているのだろう。理由は教えないくせに、命令だけはしっかりと伝えてきた。
考えてみれば、よくここまで何も言ってこなかったものだ、とリリーは息を吐いた。
坊ちゃまエドモンドが半ば公然と連れ歩いているから、大公家もリリーの素性は調べているはずだ。
「女性の地位向上と平民の登用」
エドモンド殿下の主たる活動のどちらにも当てはまる広告塔として、お目こぼしくださったといったところか――今日までは。
貴族間の恋愛や公認の愛人の仕組みがよく分からないため、あえて考えずに過ごしてきたが、弟君タイアン殿下にお妃様を迎えるとなると、本人でなくとも身辺はやはり整理しておくべきなのだろう。「いえ、私は行儀見習いですが」と心の内で言い訳もしておく。
その辺りの説明は欠片もなく、「明日、修道院へ発て」と言われた。行き先は誰にも告げてはならないとも。
騒ぎにならないよう後は引き受けてくださり、二・三カ月で戻すと約束されたが、口約束など誰が信じる。リリーはふんと鼻を鳴らした。もちろん紳士の前では、そのような態度はとらず神妙にしていたけれど。
その期間に「エドモンド殿下」を説得するつもりなのか、タイアン殿下の婚約者側から身辺調査が入るという意味なのかは不明だが、そこもリリーの知る必要はない部分なのだろう。
「承りました」以外のの返答があろうはずもない。
満足そうな相手に頭を下げて部屋を辞したリリーは、考えを整理するために極めてゆっくりと廊下を進んだ。
朝投稿のつもりがお昼に。
大筋が決まっていて楽に進めていたのに、ここにきて急に緊張が・笑。
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