表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

368/560

最強はアイアゲート・3

 部屋に聞こえるのは、薪のはぜる音だけ。寝ているのかと様子を窺えば、アイアゲートは瞬きもせずに火に見入っていた。


 このまま、また眠るのかもしれないと、ジャスパーは話しかけずにいた。



「カタい」

ぽつりとアイアゲートが、言った。


 硬い? 思わず息を詰めたジャスパーにかまうことなく、淡々と続く。


「暖炉の前の絨毯は厚くないと、硬くてお尻が痛いわ。いい羊がいるから毛をあげる」


 それで絨毯を作ってもらえばいい、と勧める。出来合いの絨毯を買った方が簡単では? と思いつつ「いい羊ですか」と聞き返した。


「私の羊。リの一号と二号と三号。五号までいる」

「――変わった名前ですね」

「こった名前は覚えられないって言われたから。リリーの『リ』なの」


 よく分からないが、半分寝ているアイアゲートに質問して、納得のいく返事が戻るまでの労力を考えると、聞き流そうとジャスパーは決めた。

羊毛の手配からしなくとも、よい絨毯は手に入る。


「お気遣いなく。良い物を用意しますから――次にあなたが来るまでに」


 同じ部屋で過ごすのは、おそらく今夜が最後。この約束に意味などないと、アイアゲートも知っているのだろう。唇がかすかにほころんだ。



「毛が足りなかったら言ってね。あげる」

「その際には」


 また部屋に静けさが戻った。しばらく待っても話す様子がないので、ジャスパーから尋ねる。


「パーティーで、父と話していましたね」

「うん」

「どのような事を?」


アイアゲートが視線を床に投げたのは、思い出しているのだろう。


「女だけど軍部でお仕事頑張ります」


 一言で済まされた。もっと長かったように思うし、話す前には態度が尊大だと感じた父であるが、最後には肩を幾分落としていたように見えた。


 「何か別の話もしたのでは」と問いたいが、今は無理だ。伝わる気配が眠い時のものだから。



 異能で知識を落とすのは術者も疲れるらしく、アイアゲートは必ず身を寄せたまま寝入ってしまう。

 勝手に帰るのも不自然だと、適度に時間を置いて、彼女から見ておかしくないように小さな演技をして起こし、それから自分が起こされるフリをする。


「ジャスパーはいつも途中で寝てしまうから」と悪びれもせず言ってのける。「一服盛っているのは、あなたでしょう」と返した事は一度もない。


 大して効かない薬の入手先がエドモンド殿下である以上、殿下もまた「効かない薬」であるとはご承知なのだ。何も知らないのは、アイアゲートだけ。



 そして彼女にとって安心安全な男であることを求めている。なんと身勝手で傲慢であることか。それが公国の頂セレスト家、グレイ家の仕える一族だ。


 静かだと思ったら、いつの間にか眠っていた同級生が、コクリと前に倒れそうになる。ジャスパーは、頭をそっと自分の胸へともたせかけた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ