最強はアイアゲート・2
むくり。アイアゲートがベッドの上で身を起こすのを、ジャスパーは少し離れたソファーに座って見ていた。
制服姿のままでぼんやりとしているのが、ランタンの薄明りでもわかる。
彼女の寝起きは悪い。機嫌が悪いのではなく、はっきりと目覚めるまでに時間がかかる。
「安心して眠っちゃった時だけ」と言うけれど、それが真実かどうかジャスパーには確かめようがない。
卒業生会はあの後、ふられた彼を励ます会という名に変わり、途中から「寮生一の酒豪」を決める流れになった。
もとより気乗り薄なジャスパーとは違い、アイアゲートは「勝ちに行く! 一番はわたし!」と宣言し、本気の飲みで見事圧勝した。
勝ちが決まってもまだ飲んでいたから、外から見ては分からなかったが、酔っていたのだろう。
他の人同様、既に部屋を引き払ったカミラとイリヤがそのまま床で寝ると言うのを、「みんなで一緒に寝ましょうよ。ジャスパーのベッドで」と言ってきかない。
足取りの重いイリヤとカミラを支えながら四階まであがった。
「あなたは、ご自身の部屋で休んでは」と勧めたのに、「ひとりだけのけ者はイヤ」と言い張り、結局カミラとイリヤの間に自分もおさまって、ベッドに三人寝転んだ。
ベッドが大きいと言っても、四人はきつい。部屋の主であるジャスパーが遠慮して、ひとりソファーに座り暖炉の火の番をしての今だ。
まだ朝までかなり時間がある。
「どうかしましたか」
ここがどこかも分かっていないかもしれないと危ぶみながら、ジャスパーはできるだけ静かに声をかけた。
ゆっくりとアイアゲートが首を巡らす。
「お水……のど……」
かすれて聞き取りにくいが「喉が渇いた。水が欲しい」と言っているのだろう。飲みすぎるとなぜか喉が渇くものだ。水差しの水をグラスに満たし、ジャスパーはベッドへと運んだ。
カミラとイリヤはぐっすりと眠っていて、起きる気配はない。アイアゲートの手元がおぼつかなく思えて、飲む間グラスに手を添えた。
「まだ飲みますか」
聞くと、首を横に振る。
もう水に興味はないらしい。今度は暖炉の火を物憂げに見つめている。
寄りたいのなら、いつものように遠慮なく寄ればいいのに。
寝る気のなさそうな彼女に聞く。
「火の側へ寄りますか」
いいのか、という風に顎を引く。あまり話しては、他のふたりを起こす。ジャスパーは手振りで「どうぞ」と示し、オーツ先生にならって暖炉猫のために敷いた厚手の敷物へと誘った。
先に座れば、ベッドからおりたアイアゲートが寝乱れた髪もそのままに隣りに立つ。
結った髪が櫛ひとつでとまるのは不思議だった。寝る前に彼女が引い抜いて、赤毛がふわりと落ちて広がる様に見惚れた。
思い返していると、アイアゲートは膝の上に乗ってきた。言葉を失うジャスパーに背中を向けて、顔を暖炉へと向ける。
モゾモゾと安定する座り心地を求めて落ち着くと、くたりと身体の力を抜いた。
膝の上に乗せるのはもちろん初めてではないが、異能を使うために「寝ている」わけでもないのに――。
赤い髪が唇に触れ、ジャスパーは思わず目を閉じた。




