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貴公子は卒業パーティーにも顔を出す・2

 ひと通りの挨拶が済んだのか、エドモンド「殿下」は堂々とリリーの隣りに立つ。「坊ちゃま、いいのかな」と思うけれど、人前で馴れなれしくリリーから聞くわけにもいかない。


「卒業おめでとう」

「ありがとうございます」


カミラとスコットが緊張した面持ちで、一礼する。


「君達も優秀だと聞いている。今後が楽しみだ」


 当たり障りのない言葉も、エドモンド・セレスト殿下が口にすれば、特別なものになる。





 リリーはそう実感しながら、「夜遊び」に行く前にしたカミラとの会話を思い出していた。


「報告、してる?」

主語もなく聞いたリリーに、カミラはしばらく黙した後に「いいえ」と答えた。

「殿下が帰国されて夏までは報告していたけれど『あとはいい』って言われたの。そこで三年分のお金の残りを一度に貰ったわ。黙っててごめんなさい――軽蔑する?」


 何を軽蔑。お金をもらって友人役を引き受けた事。そんなの。


「全然。おじ様がカミラを見込んで頼んでくれたなら、間違いはないし、実際仲良くなったんだもの」


「ご紹介」と思えば、お見合いと変わらない。


「本当はね、女だし学校は行かなくていいって父は思ってたの。でもケインズ様が『学院に平民女生徒を増やしたい』とお話をくださって。才能ある女の子が入学予定だから学友となって様子を知らせて欲しいって」


やはりおじ様が、とリリーは頷いた。


「父をその気にしたうえに、三年も前から受験の為の先生まで付けてくださるって。私、飛びついたわ」


 リリーは生活の為に勉強したけれど、カミラは純粋に学問が好きなのだと思う。


「ずっと言いたかったんだけど、どこから話していいのかも分からなくて」


 申しわけなさそうにするカミラに、そんな必要はないと首を横に振る。


「私も。母と死別して、異能があるからってアイアゲートさんに引き取ってもらえて、家庭教師がついて学院に入れたの。だからカミラと変わらないわ。お金の出処が違うだけよ」


 私は奨学生だから。リリーの言葉にホッとした顔になり、カミラは「卒業までに話せてよかった」とつぶやいたのだった。





「踊らないのか」

 気がつけば、坊ちゃまがカミラとスコットに尋ねていた。


「コレがひとりになることを気にかけての遠慮なら。私が相手をしよう」


 事も無げに言われて、ぎょっとする。他の人のいるところでは避けるようにと、ダンス講師にも忠告を受けたのに。


「坊ちゃま、人前であれを!?」

「こうも人が多くて出来ると思うか」


 あからさまな呆れ口調。坊ちゃまならダンスフロアを広くあけさせるかもしれないと思ったのだから、仕方ない。


 何のことだか分からないだろうに、カミラとスコットは神妙にしている。「坊ちゃま」とつい呼んでしまったのは、耳に残っていないと信じたい。当の坊ちゃまは気がついていないようだし、きっと大丈夫だろう。



「安心するがいい。子供が習うステップばかりにしてやろう」


 その子供が才能あふれる天才で、例えば名前がエドモンドだったりしないといいけど。五歳の坊ちゃまにも敵う気はしない、とリリーは思った。


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