貴公子は卒業パーティーにも顔を出す・1
「アイア先輩、かわいーい」
そういうのは、お友達同士でヒソヒソ言うものかと思うのに、二年生の女子は遠くからでも声をかけてくれる。
新しいリボンや手提げ袋を見つける目ざとさは、リリーも感心する域だ。イグレシアス公子が堂々と誉めるのを見慣れてしまい、そういうものだと思い違いをしているに違いない。
「ありがとう」
にっこりとしてみせると嬉しそうにするのが、本当にかわいい。
卒業パーティーの会場で、リリーはカミラと立ち話をしていた。今年は表彰者として一団で入場し、ダンスが始まって早々にカミラを見つけ話し込んでいるところ。
「来年はそのドレスが流行るかもしれないわね」
「それはない」
リリーはきっぱりと否定した。昨年のエプロンドレスも一学年下の女の子には好評だったけれど、今年誰が着ているというのか。いや、ひとりも着ていない。
リリーの指摘にカミラが困り顔になる。今夜のカミラは「秋冬中着られる」と両親に贈られた、流行に関係のない定番のドレスだ。
「かわいいのは、ほんとよ。初めて見るデザインで素敵だわ。でも、なんと言うか『私には無理』って思ってしまうのよ。みんな、きっと」
言葉選びに苦心のあとがうかがえる。白いドレスは難しいと思いがちだが、着てみてわかった。
白には、誰が着ても「キレイ」「素敵」と言わなければいけない、と感じさせる圧がある。だから聖職者が衣のどこかに白を必ず取り入れるのだろうと、リリーは推察した。
坊ちゃまエドモンドがもう一着ドレスを作ってくれたけれど、もちろん今夜着るべきは手描きのポピーのドレスだ。そこは間違えてはいけない。
「白いドレスは勇気がいるよね。それに手描きはなかなか職人も工房も見つけにくいと思うよ」
飲み物を三人分手にしたスコットが会話に加わった。
卒業して働きだせば夜会服を着る機会もあると、これを機に誂える男子は多いが、スコットもそのひとり。真新しい夜会服がまだ体に馴染まず初々しい。
「画家ならドレスには描きたがらないだろうし、職人に頼むにしても相場が存在しないから、相手の言い値になってしまう」
「見た目より高くつく、と言うことね」
リリーの露骨なまとめに、カミラ同様スコットも困ったように笑う。同じお金をかけるなら、レースやドレープを多用した方が豪華になる。大半の女性はそちらを喜ぶと思う。
「でも、目は引くよ」
「流行らないけどね」
スコットの発言を茶化していると「楽しそうだ」と声がかけられた。坊ちゃまの声だけれど、ここはちゃんと「殿下」と声をあげる。
今年はパーティーにもご出席くださるとのことで、先ほど他の理事とご一緒にいらしたばかりだ。




