卒業式・1
卒業式は制服を着る最後の日だ。卒業してもすぐに退寮する必要がないので、リリーはひとり自室で支度を済ませた。
カミラは両親が来るので、門で出迎えようと一足先に出掛けて行った。
共有部をのぞけば、ジャスパーとイリヤが談笑している。おなじみのこの光景も見納めかと思うと、感慨深い。
「おはよう」
イリヤの声とともにふたり揃って立ち上がる。その態度は紳士そのもので、入学した頃とは体つきからして違う同級生に、リリーは眩しい気持ちになった。
「今日はよろしくお願いします」と軽く頭を下げると「こちらこそ」と返る。
本日ジャスパーは総代を務め、イリヤは馬術部での活躍が認められ、学院の名を上げたとして、初代校長の名を冠した賞を受ける事になっている。卒業後は家業に就くイリヤにとって特別に嬉しい賞だと思われる。
「珍しいですね」
ジャスパーの言うのはリリーの髪型だ。後の卒業パーティーも同じでいいように、朝からアップにした。
ひとつにまとめた髪をねじり上げて折返し、スソを押し込んで綴じ目を櫛で固定した。簡単にできるまとめ髪。
華やかさはないが頭の形が良く見えてお姉さんっぽさが上がる――ような気がする。
「着替えた時に直すのが面倒だから」
理由を明かせば、イリヤが笑った。
「卒業パーティーには、みんな力を入れるものなのに」
「皆」は言い過ぎだと思う。最後の機会ととらえて告白したい人や、卒業する先輩に気持ちを伝えたい人はそうだろうけれど。
「そろそろ時間です」
ジャスパーに促されて、講堂へと向かった。
この為に遠方から来てくれたアイアゲートの父とおじ様ロバートは、保護者席から見てくれているはず。
来賓席には学院理事でもある坊ちゃまエドモンドが、教職員席にはアンガス先生がいる。
粛々と式が進むなか、リリーはジャスパーと共に他から見えない位置に控えていた。この後、総代となった成績優秀者に記念の品が授与される。
来賓の祝辞を聞きながら「記念品って、何かしら」と、ジャスパーに尋ねる。祝辞はもう何人目かで、皆同じことを話すので正直、聞かなくてもいいと思う。
「カフスボタンです」
答えはすぐに返った。
カフスボタンは男性が使うもの。ならば自分には何をくれるのだろう。ジャスパーも同じ考えを持ったらしく「あなたが初代ですから」と言う。
「今年あなたが授与されたものが、今後女子の首席に贈られるのでしょう」
「ジャスパーと比べると『首席』と言われるのは、心苦しいのだけど」
「性別以前に、持つ異能が違います。総合的に判断するにも比べようがないと思います」
異能の違いが性別より先? リリーが口を開きかけた時、呼ばれた。話はここまでだ。
ジャスパーとリリーは揃って中央へと出た。




