世界にひとつだけの・1
愛を伝える日。リリーは荘園にある館でドレスを前にしていた。
立体的なハンガーに着せたドレスは白地で、スカートの裾にポピーが描かれている。地面に生えるポピーをそのまま写し取ったような他では見たことのない柄だ。
オレンジ、ピンク、赤、黄、ほんの少しの青、色とりどりのポピーがなんとも絶妙な配置で咲いていた。
「坊ちゃま、すごくキレイ。こんなドレス見たことないわ」
これ一枚で完成していて、誰も着ない方がいいのじゃないかと思う。それくらい存在感があり、似合うとか似合わないとかを超えてしまっている。
腕組みをして壁際に立つエドモンドの前で、リリーはドレスのまわりを一周した。前も後ろも繋がるように花が咲いている。潔いほど白いドレスだから、花が引き立つ。でも汚れそう。
「見たことがないのは当然だ。私が描いたのだから」
――描いた。思いがけない言葉に振り返っても、坊ちゃまエドモンドは整った表情のまま見返すだけ。
何かを匂わせているのでも仄めかしているのでもないらしいけれど、意味が分からない。
リリーはおじ様ロバートに助けを求めた。控えていたロバートが補足する。
「真っ白のドレスを仕立てまして。仕立て上がったそれに、エドモンド様がお手づから描きいれたものでございます」
つまり、こんなにたくさんある花の一本一本が手描き。ぎょっとしてドレスを見、エドモンドを見る。
何を驚く、とでも言いたげな顔をしているけれど、両手に絵筆を持って同時に描いたとしても――そんな事はしないと思う――ずいぶんな時間がかかったはず。
そして、どう見てもこのドレスのサイズは自分にぴったり。
この二週間週末は多忙と言われたのは、この絵のため?
だとしたら、庶民の舞踏会にこっそりと出掛けてひと騒ぎ起こしたのは、絶対に言えない。
墓まで持って行くべき秘密だ。いざ墓に入る時には、抱えた秘密が多すぎて納まらないかもしれないけど。
リリーは後ろめたさと申し訳なさを感じつつ、黙っていようと決意した。
「女生徒は卒業パーティーに着飾って参加すると聞く。これは思うより、おとなしくなった。別に一着作らせよう、気に入った方を着るがいい」
おとなしい。リリーにはそうは思えない。派手かと言われればそうではないが、おとなしくは少しも無い。
よく見ると、所々に真珠が縫いつけられている。形がいびつなので輝きが一定ではなく、それがまた目を引く。
「おそれ多くて着られないわ」




