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思い出づくり・4

 リリーも一瞬だけ口角を上げて笑みの形を作った。お互い踊る相手には失礼だけれど、ターンをしながらで気づかれてはいない。見るからにしなやかな彼の指が気になった。


 次のひとりの間にざっと自分の動きを確かめ、ようやく彼と対面となる。



「はじめまして、だね」


 ニコリとするとエクボができる。この暗さで見る限りは美男子で、人を惹きつける笑顔だ。身長はさほど高くなく男性としては小柄。


「ええ、そう。はじめまして」


 するっと腰回りを撫でる手つきは、見た目通りあたりが柔らかい。リリーは思わず笑いをこぼした。


「ご機嫌だね、とても楽しそうだ」


 お決まりの質問をせず同じくらいの笑顔を作る相手に、「そうね、だって」と返したリリーは、彼の手首を押さえた。それ以上は触らせない。


「だって、スられる人を見たことはあったけど、自分が狙われるのは初めてだから」


 彼がパチリと瞬きした。視線がぶれないのは立派だと思う。慣れているし、切り抜けられると信じて疑わない顔だ。


「こんな場所に大金を持ってくるとも思えないのに。ずいぶんとシケた商売ね?」


 大きなバッグは邪魔になるから、女性は皆手首や肘にかけられる小さなものだ。リリーの場合は、まとまったお金はジャスパーが持ち、スカートのポケットに飲み代が入っている程度。


 始めに触って知っただろうに、それでも手を伸ばした。人のお金を掏るだけなら見逃した。でも、自分がされるなら話は別だ。


「なんのこと?」

理解できないと、彼が戸惑いをにじませる。



 パートナーが変わるタイミングなのに向かい合ったままのリリー達を、迷惑そうに次の男性が飛ばしていく。その間もリリーは目の前の優男から、視線を外さない。


「まだ言い逃れできると思ってるの? 状況把握が甘いわ。狙う相手を間違えたわね」


 キレイなドレスに騙されたんだろうけど。付け加えると、愛嬌のあるエクボが消えて、口元に卑しさが表れた。


「はっ。そこまで言われたんじゃ、仕方ねぇな」


 リリーは手を持ち変えて上着の袖口を絞ると、相手の動きを止めてすぐに、彼の胴まわりの幅広の布ベルトに手をかけた。


 素早く探る。思った通り、女物の財布が出てきた。硬貨の音がする。


「返してもらうわ」


 リリーの声を合図にして、優男から猛々しい雰囲気が立ち昇った。

先手必勝。顔を狙われるとみて、避けざまに男の肋骨めがけて躊躇なく肘を打ち込んだ。手応えあり。


 腰を折り曲げてよろけた男が、後ろにいた女性にぶつかる。


「きゃあ!」


 派手な悲鳴とともに女の子が倒れ、それを支えた男性がテーブルに激しくぶつかった。上にのるグラスがいくつか落下したらしい。割れる音が響いた。


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