表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

345/560

スコットのプロポーズ・5

「そうだな、いつでも来られる。――ようやく折り合いをつけたか」

いつになく柔らかな声。


 なんの事? と聞き返そうとして気がついた。明日の食べ物さえなかったあの暮らしや、母の事だ。


 急な変化について行けず、心のうちに封じてきた。解くきっかけはクロエでも、ずっと気にかけてくれた坊ちゃまやおじ様、変わらぬ友情を約束してくれたジャスパー、カミラがいてくれたからこそだ。


 今は思い出しても苦しくはない。苦くはあるが、大人になれば誰しも何かしら抱えているだろう。それがわかるくらいの(とし)になった。



「今考えても、やっぱり間違えたと思う。他にもっとやりようはあったの。でもあの時の私には、ああしかできないのも本当。この体で戻れるなら別だけど、あの日をやり直すだけなら、きっと何度しても結末は同じだわ」


 エドモンドは、そうだともそうでないとも言わない。

リリーは顔を上げて、腕の長さ分距離を取った。聞いてもいいだろうか。


「坊ちゃまも、あれで良かったと思ってる?」

「親は子より先に死ぬものだ」


 静かな表情で淡々と告げたエドモンドは、リリーの身体を軽く抱いてそのまま立ち上がった。



「そろそろ行くか。日が沈んでしまえば、ここに用はない。お前を早く温めねば凍りつく」


寒いのは坊ちゃまも同じだと思うのに。


「食事は暖炉の近くでとれるよう部屋を手配してある。運ばせれば、テーブルマナーも必要ない」


 目つきから、マナー講座の件をからかわれているとわかる。それでも。


「坊ちゃま、優しい」

気持ちがうまく言葉にならず、リリーはそれだけを返した。


「私が優しいとは思わないが。お前が言うのなら、そうなのだろう」


手を繋いだままでエドモンドが先に立って歩き出す。



「坊ちゃま、抱っこされたい」


 無理は承知で言うだけ言ってみたリリーに、「ここでは危ない。ふたりで落ちたらどうする」と、にべもなく断るエドモンド。


「言ってみただけ」

 さすがにこの階段でしてもらえるとは、思っていない。少し甘えただけだ。


「後にしろ。後からなら、いくらでも抱いてやる」

美声が薄暗がりに響く。


「……坊ちゃま、なんだかヒワイ」

「お前が言わせたのだろう」


「だいたい卑猥の意味を知っているのか」と疑う声を聞きながら、絶対に届かない声でこっそりと呟いてみる。


「坊ちゃまが大好き。なぜなら優しいから」


 昔もこんな事を言ったんじゃなかったか。あの頃から、坊ちゃまがずっと好き。


「お前が後ろだと危なくて仕方がない。やはり抱えるか」

「大丈夫!」


 今度はリリーがお断りした。もう大きくなったから、自分の足でついていける。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
うん、坊っちゃまは優しい。 プロポーズごっこしてくれるし、心のケアもしてくれる。時に子供扱いしながらも対等に接してくれる。リリーの好きな暖かい暖炉も、甘いデザートも、ぬくもりの時間も全部用意してくれ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ