スコットのプロポーズ・3
長く戦のない今、公都旧市街と呼ばれる地区を囲んでいた城壁は取り払われ、住宅や道に変わっているが、大公宮殿から適度に離れた場所には、一部が残されている。
周辺の建築物より高いその壁は立ち入り禁止で、上がり口の鉄柵には厳重に鍵がかかっている。
崩落の恐れと、公都を広く見渡せる事による警備的な問題が主な理由だが、実は書類一枚提出するだけで誰でも上がることができる。
ロバートお勧めの「プロポーズに相応しい場所」ひとつめは、この城壁だった。一日あれば届けが間に合う上に、他に希望者があるとも思えず眺望を独占できる。歴史遺構扱いなので、無くなる心配もない。
もうひとつは、中央公園内の温室。珍しい植物が集められているが、常に人気は少ない。城壁の上は寒さが厳しく長くはいられないだろうが、こちらは寒さも雨も心配いらない。誰でも入室でき、届けも不要だ。
リリーは満足して、このふたつをスコットに提案した。
ジャスパーの案は、今しかできない事として「講堂でピアノ演奏をしてからのプロポーズ」と、プロポーズの演出を手助けしてくれる料理店だった。そこはデザートのお皿に「結婚してくれる?」と書くサービスや花束の用意まで請け負ってくれる事で話題のお店だそう。
長考のすえにスコットが選んだのは城壁と料理店だった。
午前中に城壁でプロポーズしてから、スコットの家へ行き両親と昼食をとる予定と聞いて、「断られる事は想定していないんだ」とリリーが少し意地悪を考えたのは、誰にも内緒だ。
夕食はカミラとスコットふたりでジャスパーお勧めの料理店へ。デザートのお皿には別の言葉を書いてもらうらしい。それは後からカミラに聞こうと思う。
プロポーズされて嬉しかった話は絶対にしたいものだし、きっとカミラは真っ先に教えてくれると思う。考えるだけでリリーまで幸せな気分になっていた。
それが、どうしたことか。
リリーは城壁の上から、落ちていく夕日を見ていた。
「たまには外で食事をするか」と言った坊ちゃまエドモンドが、その前に寄ろうと誘ったからだ。
城壁へ上がる階段は一段一段が高く苦労したけれど、上がってみれば街並みが一望できて、来てよかったと思った。
許可は今日一日出ているので、スコットと重ならなければいい。午前中にここで仲良しのふたりが、求婚をし幸せな気分になっていたと思うと、ひときわ感慨深い。
でも、寒い。本当に寒い。
「プロポーズってどんな感じかしら」
と聞くリリーの吐く息は白かった。




