スコットのプロポーズ・2
「それはポロックの考えではなく、お前の趣味なのではないか」
エドモンドが面倒そうにロバートを見やる。これはよくある丸投げの構えだ。
「そんなことない。私がそう言ったらスコットは『はいそれ採用』って言ったもの」
「やはりお前の希望ではないか」
反論しつつ、リリーもおじ様ロバートに顔を向けた。
こうなると予測していたのだろう優秀な家令は、既に感じの良い笑みを浮かべている。
「プロポーズはいつ頃を予定しておいでですか」
「来週の土曜日」
「来週、でございますか」
さすがにロバートも驚いたらしい。即座に聞き返す。それで、大人からすれば来週は極めて急なのだとリリーは思い当たった。
坊ちゃまエドモンドも急に肩の力が抜けるような提案をする。
「『思い出の場所』という事にして、いっそ教室か寮で済ませたらどうだ。お前達が生きているうちくらいは、学院もなくなりはしない」
すぐそこで聞こえる意見は耳に入らないふりで、リリーがおじ様だけを一心に見つめていると。
「明日までお時間を頂けますか」
珍しく考える様子で床に視線を落としていたロバートが乞うた。
今日は土曜日で、この館には月曜日の朝までいる。何の不都合もない。
「ロバートの提案する場所が見ものだな」
ひやかす声をこれまた無視して、リリーは力強く頷いた。
「ありがとう、おじ様」
側に駆け寄りたいけれど、腰をがっちりと押さえられている。馬にベルトで固定された子供のように身動きが取れず、モゾモゾもできない。
「ご期待にそえる自信はございませんが」
「大丈夫! おじ様だもの」
絶対の信頼を寄せていると伝わるように力づけるリリーに、エドモンドが質問する。
「お前の案が却下される可能性もあるのだろう?」
ジャスパーがすごく素敵な場所を紹介すればそうなるけれど、カミラが喜びそうな所なら別に自分の案に拘らない。強がりではなく、本当にそう思っていると説明する。
「お前も婚約がしたいか」
聞かれて、リリーは目を丸くした。いきなりなのはともかく、相手がいないと知っていて聞くのはどうなのか。
「皆が皆、婚約するわけじゃないわ。それに私がなりたいのは、お嫁さんじゃなくて職業婦人だもの」
婚約するのは知る限りクラスの二割くらいだから、多くはないと思う。何回も結婚したいなら別だけど、一度でいいなら急ぐ必要はない。
語るリリーにエドモンドが返したのは「そうか」の一言だった。




