スコットのプロポーズ・1
「もう十二月なんて、早いわねぇ」
ほう、と物憂げに頬に手を添えるリリーのすぐ後ろから声がした。
「感情と表情が一致していない」
首をねじって見た先には坊ちゃまエドモンドの金茶の瞳。いつ見ても綺麗で、舐めたら味わい深いんじゃないかと、リリーは密かに思っている。
自分のお高くない石のような色の眼とは、まるで違う。比べるもののない美しさだ。
暖炉に火の赤々と燃える季節。リリーはエドモンドの手を取り、ぶ厚い敷物の上に座らせ、その長い脚の上に自分が座りクマ執事のロビンを抱えるというお気に入りの姿勢で、午後を過ごしていた。
「私は今、どんな気分でしょうか。坊ちゃま、当ててください」
子供の頃によくした「当てっこ」だ。つきあってくれるらしいエドモンドが、瞳の奥を覗き込むようにする。そんな真似をしなくても、ロビンを抱えている手に、坊ちゃまの手が重なっているから、そこから分かるのに。
笑いたくなる気持ちは頬に出たらしい。エドモンドが指先ですいっと撫でて当てにくる。
「うずうずしている。または、ワクワクしている」
「――せいかい!」
エドモンドが煩いと顔をしかめる。
「で、それは『どうして』と聞いてやらねばならないのだろう」
「そうなの」
いそいそとリリーは身体を向かい合わせに変えた。背中に暖炉の形だ。足はみっともなく広がってしまうけれど、スカートで隠れるので大丈夫。
「スコットに、プロポーズに相応しい場所はないかって相談されたの。あ、されるのは私じゃないわ」
「準爵家の娘カミラ・シーゲルに、投資家の息子のスコット・ポロックがプロポーズしたい。よって適した場所はないかと、お前に相談したという話だな」
そんな事は分かりきっていると、若干迷惑そうな態度で、エドモンドが言い直す。
「私だけじゃなくて、ジャスパーも聞かれてたけど」
付け加えたうえで、尋ねる。
「でも、私住んでいたご近所しか知らないの。坊ちゃまは、何でもよくご存知でしょう? だから坊ちゃまに聞くのが一番だと思って」
リリーが馬に乗る時の要領で軽く腰を前後に動かすと「落ち着け」とエドモンドの手によって止められた。
はしゃぎ過ぎを咎めつつも「条件は何だ。ある程度絞らなければ、漠然としすぎている」と返す坊ちゃまは、さすが分かっていらっしゃる。うふふとリリーは笑いを漏らした。
「お料理店だと『都合により閉店いたしました』があるでしょう。幸せな思い出の場所がなくなるのはダメ。これから先もずっとあって、非日常性が欲しいから、普段は行かなくて『まあ! ステキ!』って言っちゃうような場所。自然に手をつなぎたくなったり、ちゅってしたくなるといいと思うわ」
これくらいだから、そんなに注文は多くないと思うけれど、リリーには該当する場所がまるで思い当たらなかった。




