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貴公子は紳士倶楽部で密談する・2

「これは、一体?」

「文字を読むには少し暗いか。内容ならば、一字一句違わずに記憶しているが、急に面会を求めた私が侯の貴重なお時間をとるのは忍びない。概略をお伝えしよう」


 紳士倶楽部の一室で、渡された数枚の紙を手にし不審感を露骨に顔に出した紳士に、エドモンドは淡々と口にした。


 ふたりがいるのは数多い談話室のひとつ。先にエドモンドが到着しており、断れるはずもない侯が、到着するなり案内されて今だ。



「侯のご息女ジャカランス・グレイ嬢の愛人は――失礼、まだ未婚でいらっしゃる以上お子があっても『恋人』と言うべきだな。話しついでで無礼ではあるが、立派な跡継ぎのご誕生に祝意を申し上げる」


渋面でグレイ侯が浅く頭を下げる。

「お言葉に感謝申し上げます」


「ご息女の恋人は王国人音楽家で、現在はグレイ家お抱えの音楽教師。幼少時は神童の誉れも高く、父と巡業演奏活動で糧を得ていた」


それがどうした、と侯の濃い眉がひそめられる。


「そこまでご存知なら、当時その父が王国諜報部に籍を置いており、演奏活動とは表向きで実のところは諜報活動だったとも、知っておられたか」


間をおいてもグレイ侯の応答はない。


「情報を得るだけでなく、行った先では後に大なり小なり問題が起こっている。工作員と考えてもいいくらいだ。農民の武力をもっての陳情であったり、領主の跡目争いであったりと様々ではあるが、治める者の力を削いだ事は間違いない」



 エドモンドは手に持つワイングラスに口をつけた。「いい香りだ」と目を細める。 

 話している間、書面から顔を上げないグレイ侯は平然として見えるが、指先に力がこもっていると、エドモンドにはひと目でわかる。


「他国にも巡業には出ているが、騒ぎは王国内に限る。そこは安心されよ」

「これだけで、諜報員だと決めつけるのは……」


 無理があると薄ら笑いを浮かべて、グレイ侯が胸を張った。


「軍の要職にある方が、それを」

おっしゃるとは。と、エドモンドは最後まで言い切りはしない。


グレイ侯の喉が妙な音を立てる。

「仮に、仮に親がそうだとしても、子は別でしょう」


エドモンドの眼差しが冷めた。

「子供でも十歳を過ぎれば、知らぬ存ぜぬでもないと、私は考える。そして大人になったその子供を屋敷に迎えようとはとても思えない。が、一般人ならともかく、ご立派な軍人であられる侯がそう言われるのなら、私の臆病が過ぎるのでしょう」


 あっさりと撤回するエドモンドにこそ、余裕があった。


 なんの力もない地方にある弱小貴族の家なら、譲ってそれでいいかもしれないが、高位貴族でしかも軍の要職につく名門グレイ家だ。


 少しでも経歴の怪しい人物を家に入れるべきではなかった。事前の調査が甘すぎる。そんな事だから、今夜窮地に陥っているのだ。


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