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薔薇の香りに虫はたかる・2

 ロバートは息子エリックの報告に頭を悩ませていた。「リリーからいい匂いがする」と。


「僕は好きなんだけど、他の人も好きそうなんだよね」その後で言い難そうに口にした。「リリーも困ってるように見える」と。



 そして今、馬車から目にした光景にエドモンドが不機嫌になったことをロバートは知る。


 リリーの頬に手を添えて耳元で何事かを囁く男性にリリーが綺麗に微笑む横を、速度の落ちた馬車で通り過ぎたばかりだ。


「エドモンド様。原因はご自身にございます」


 不機嫌が長引くのは、この後の予定を考えても不都合がある。経験に鑑みて今日は真っ向から切り出した。


 エドモンドの端正な顔に険が加わる。しかしそれくらいで怯んでいてはエドモンド・セレストの家令など務まらない。


「髪のオイルに薔薇の香りを足したりなどなさるからです」


 バラの精油は少量を作るのにも、大量のバラを必要とする。そこに特別に香り高い「大公家の薔薇」を加えると、ぐっと華やかさが増す。


 その(きん)に匹敵すると言われる薔薇の精油をリリーの使うオイルに垂らしたのは、リリーの髪を乾かすことを自分の役割としたこのエドモンド・セレスト本人だ。


 湯上がりのふくふくとピンクに色づいた頬と、くすみの取れた赤い髪に薔薇の香りは確かに似合う。リリーも気に入っている様子だ。


が、そのせいで「虫」が(たか)っている。

ロバートはそう指摘した。


 言うべき事は言ったと主人の反論を待つ家令ロバートに、若き主人は窓の外に顔を向けたきり一言も発しない。


 その硬質な表情から、何も読み取れはしない。

エドモンドは上に立つ者特有の、内心を押し隠した無表情を身に付けている。


この表情から何かを察することは不可能だ。

主従は無言のまま、馬車に揺られた。





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