冬の入り口・3
中身は瓶入りのジンジャーシロップだ。
「公都で感冒が流行してるって。ジンジャーシロップは予防になるの。みんなの分もあるから、ジャスパーも一本どうぞ」
瓶入りのジンジャーシロップを十本持ってきたせいで、重くなった。それ以外に本も入っているから、重さは相当なもの。
おじ様に「シロップは半分にしておいては」と勧められたのに、欲張った自分が悪い。
「よくここまで運びましたね」と呆れ半分に感心するジャスパーに、リリーは反省の気持ちを込めてペコリと頭を下げた。
身体系の能力者だったらよかったのにと思うのは、こういう時だ。使い所が間違っているかもしれないけれど。
ジャスパーが持つと籠が重そうに見えない。異能を使っている感じはしないから、男の子なら持てる重さということか。
「力の差は、どうしたってあるわよね」と、細いと思っても背幅のしっかりとある後ろ姿に、つい口から出た。
トムと取っ組み合いの喧嘩をしていた頃は体格差はなかった。意地悪は言うものの、ふっかけてこなくなる頃から、男の子らしくゴツゴツしてきた。
態度から思いやりが感じられて、女の子は守ってやるものという気遣いは良い事なのに、素直に受け止められなかった。
などと考えていると、早くもジャスパーが戻ってきた。
荷物は運んでくれたから、もう降りてくる必要はない。なのにリリーを見おろしているので、「ありがとう」とお礼を言う。
「いえ」
短く応えたジャスパーは、すぐ脇で片膝をついた。ダンスの要領で取った手を引かれれば自然に体が動き、導かれるままにリリーは花壇から立膝へと移った。
考える間もなく、脚と腰にジャスパーの腕が差し込まれて、リリーを抱えて流れるような動作で立ち上がる。
これは担架がなく、担架のかわりにする椅子も手近にない時に、ケガ人を運ぶ横抱き。実習で習って知っている。
驚きで言葉のないリリーを気にすることなく、ジャスパーは確かな足取りで歩き出した。慌てて肩に腕をまわして、体重を逃がすようにする。
「ジャスパー、何してるの? 歩けるわ」
何を勘違いしたのかと、必死に伝えるリリーに、涼やかな声が返る。
「そうですか。『荷物は私が運ぶ』とお伝えしたつもりでしたが」
籠だけでなく、リリーまでもが荷物。その発想に唖然とする。
「私は荷物じゃないの。歩くからおろして」
「ですが、私と共に上がってくると思ったら、まだ外に座っていました。疲れて動きたくないのでしょう? 今夜のあなたからは、薔薇がひときわ香ります」
ジャスパーがすっと呼吸した。




