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冬の入り口・2

 見なくてもわかる。これはジャスパーの声。彼から微かに香る爽やかな香りは以前にリリーが調香した――と言っても大半は調香師による――もので、とっくに使い切ったはずだけれど、同じものを店で購入しているらしい。

そんなに気に入ってくれたなんて、喜ばしい限りだ。



「まさか寝ているわけではありませんよね」

返事がないのを、不審に思ったらしいジャスパーが尋ねる。


「まさか」

怠くておっくうなだけで、さすがに外で寝るつもりはない。リリーは目を開いた。


 坊ちゃまエドモンドと会ったすぐ後であるせいか、ジャスパーが細身に見える。肩の厚みや胸の薄さが違う。女の子のように男の子も年齢と共に肉づきが変わるのだろうか。


「どうかしましたか」

ジャスパーが問う。


「男の子が時々、筋肉自慢をしているじゃない? ジャスパーは興味がないのかなあって」


 値踏みをするかのような失礼な目つきをしていたら、行儀が悪すぎる。少し後ろめたく思うリリーに、ジャスパーはさらりと返した。


「体の大きな男は苦手でしょう」

「誰が?」

「あなたが」


 え? 理解を越えた発言に戸惑っていると、繰り返された。


「アイアゲートが、です」

そのまま続ける。

「大柄な男子を苦手とするように、見受けられました。――生理的に」


 気にしていなかったが、言われてみれば心当たりがある。母の客でも太めの人や、がっしりとした体躯の人には緊張した。逃げようがない、と思ってしまうから。



 それにしても、傍から見てわかるほどとは。「弱点はここです」と触れ回っているようなものだ。リリーから情けない笑いが漏れた。


「教えてくれてありがとう。それと知られないよう、心掛けるわ」


 この会話だと、私が肉づきのよい男性を苦手とするから、ジャスパーが筋肉をつけないようにしている、と聞こえるがそんなはずはない。でも。


「どうしてここにいるのわかったの? それとも、どこかへ行くところ?」

リリーは話を変えた。


「部屋から見えますので」

 言いながら見上げた窓を、リリーも見上げる。ぼんやりと明るいジャスパーの部屋は、前庭に面しており、窓から下を見れば花壇は目につく位置だ。



「ここで話さなくてもいいでしょう。荷物は私が運びます」


 ジャスパーが荷物を示す。大丈夫、と言いたいところだけれど、自分で運ぶのには嫌気がさしているリリーだ。ご厚意には喜んで甘えることにする。


「ありがとう。部屋の前に置いてくれればいいから」


 リリーの言葉に頷いたジャスパーが籠を持つと、持ち手が重みでギシリと音をたてた。


「よくここまで運びましたね」

「鍛えているから」


 冗談にもならなかったらしく、聞き流される。

「何が入っているのですか」


 普通女性の荷物の中身など質問しないものだ。が、聞きたくなるほど重いらしい。四階まで運ぶジャスパーには、聞く権利がある。


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