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伯爵令嬢は語る・1

 特に何ということもない、そろそろ暖炉に火の気の欲しい日。


「お久しぶりですこと」


 それこそ久しぶりに図書室へ来ていたリリーに声を掛けたのは、レイチェル・マクドウェルだった。リリーより先にいたらしく、奥から姿を見せた。


 いつもと同じくたっぷりとした金髪を手のかかる編み込みと巻き髪にしている。華やかさは入学当初から変わらない。崩れない身だしなみも、変わらない。



「はい、マクドウェル様もおかわりなく」

後に続く「お喜び申し上げます」は省いてよいことになっている。


「グレイ様と待ちあわせでも?」


 皆がジャスパーと気安く呼ぶようになっても、頑なにグレイ様と呼ぶマクドウェルに、リリーは「いいえ」と答えた。



 図書室で勉強する事のあるジャスパーの邪魔はしない。分からないところはオーツ先生に聞けばいい。人と一緒に勉強して教え合う事は、リリーにはあまりない。

 今日も、パンを発酵させる手間が面倒で、発酵のいらないパンの載っている本を探しに来ただけだ。作るわけではなく読むだけになると、知っているけれど。



 マクドウェルが珍しく、本当に珍しく声を掛けてきたのは、話があってのことか。リリーは読みかけの本を閉じて、座ろうとしないマクドウェルを見上げた。


「後期試験も、きっとグレイ様が主席で次席がアイアゲートさんなのでしょうね」


 言う口元が歪んでいるのは、腹立ちか自嘲か。リリーには判断がつきかねた。後期試験は年明けで、まだ先だ。ここのところ上位成績者の順位が固定化されているとはいえ、結果を見るまでは分からない。


 そんな事はいちいち説明しなくても、マクドウェルも既知のことだ。となると、リリーには適当な返事が浮かばなかった。



「あなたを見ていると、自分が価値の無いものに思えてきますわ」

マクドウェルが思いがけない事を口にした。


「マナーはまるでなっていない、淑女として不足する部分ばかりなのに、先生方には贔屓され、グレイ様の隣に当然のような顔をして並ぶ」


 言いたい事は多々あるが、彼女視点で話しているだけで、他意はないようにも感じ、リリーは黙っていた。



「幼い頃から家庭教師について学んで来た私の努力が無駄であったかのように、苦もなく上回る成績を取る。平民がお顔を拝することなど不敬にあたる公子を(たぶら)かし、この世に身分や階級など存在しないかのように、親しげにふるまう」


 「公子」はイグレシアス公子の事だろう。誑かしてはいない。公子がここにいれば同じことを言うはずだ。


 それにしても、語るマクドウェルの念頭にある人物は自分、とリリーも解っているが、他人事として聞くとあまり(たち)のいい女の子とは思えない。どう聞いても自分なのだけれど。


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