行儀見習い、女主人になる・2
誰がどれ位お酒に強いのかも、わからない。リリーは女主人の強権を発動し、はじめの飲み物は全員エルダーフラワーコーディアルの水割りにした。
大体、教えられてもいないのに、女主人に相応しい振る舞いなどできるわけがない。最後に給仕長からそれぞれ講評を頂くらしいが、そんなやり方だと知っていたら、別の講座を受けた。
などと考えるリリーは、珍しく機嫌がよろしくない。「女主人」を実人生で務めることなどないのだし、見苦しくなければ好きなように食べたい。
おじ様はいつでも「お好きなようにお召し上がり下さい」と言ってくれる。
坊ちゃまは「私に同行する者にマナーなど説く馬鹿者はいない」と、口うるさく言ったりしない。
骨付きのお肉は「ナイフが危ない」と、骨を外してくれる。それがローストなら、手で持って食べることを推奨されるほどだ。――自慢していいかどうかは疑問だけれど。
不機嫌になると勘が冴える。子供の頃から少しピリピリしたくらいが、感覚が澄み異能も扱いやすい。リリーは一呼吸おいた。
たぶんまだ仕掛けてくる。そして私はこのテーブルを囲む仲間を守らなければならない。なぜなら女主人だから。
「砦の守護者みたい」と自分でも大げさであることを承知しつつ、リリーは「敵」の出かたを見た。
離れたテーブルに、メイン料理が運ばれて来た。給仕の持つ大皿から各自が取り分ける方式だ。皆に注目されて緊張するなかで美しく取り分けるなんて、難題だと思う。
料理が運ばれて来てからでは遅い。リリーは給仕に視線を向けた。彼が口を開く前に告げる。
「メインは銘々のお皿で出すか、ワゴンの上であなたが取り分けて」
「それでは――」
練習にならないとでも言いたいのか。正しい作法も教えられていないのに。リリーは目に力を込めた。
「女主人は私だわ」
文句の全てを声に出したりせずに、胸をはり顎を上げつつ、さり気なく左手首の紅いブレスレットを見せつける。
誰が良いお家の子かまでは知らないだろうし、皆制服で来ている。その中でこのいかにもお高いブレスレットを見れば、「ご令嬢」と勘違いしてくれるはずだ。
はたしてその通りになった。
「かしこまりました」
ゆっくりと一礼する給仕に、リリーは愛想よく付け加えた。
「骨があるなら外しておいてね。お客様に余分なお手間をかけさせたくないもの」
デザートのルバーブのタルトが出る頃には、女主人リリーにも他を見る余裕ができた。
ワインを好きなだけ飲んだテーブルでは、フラフラになった子がいる。カミラのテーブルでは、誰か大皿から取り分ける時に服に肉汁を垂らしてしまったようで、濡れ布巾をもらっていた。
その点最後まで白葡萄ジュースと葡萄ジュースで通したリリーのテーブルは大過なく済んだ。
そんなリリーが受けた評価は「女主人としての采配は見事なものでしたが、高位貴族に相当するものです。身の丈に合った振る舞いを覚えましょう」だった。
一生女主人にはならないし、晩餐会は開かない。
リリーはそう心に決めて、むっと唇を結んだ。




