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行儀見習い、女主人になる・1

 秋の選べる課外授業は「テーブルマナー講座」にした。

「アイアがマナーにするなら、私もそうしよう」とカミラも同じにしたのに、くじ引きで班が分かれた。


 八人が長テーブルにつき、招いた主人役、招かれた主賓役をこれまたくじ引きで決める。女主人役を引き当てたリリーが思わず別テーブルのカミラを見れば、引きつった顔で紙を広げて見せてきた。


 なんとカミラも女主人になってしまったらしい。「屋敷での晩餐会」は、女主人が主となり、もてなすのが基本。得難い経験をさせて頂くと思うべきなのだろう、きっと。


 毎年マナー講座に協力してくれるという料理店で、四十人が五卓に分かれて、それぞれのテーブルで会話を進め会食を楽しむことになっている――が、楽しめる訳がない。リリーは目の前の皿にのる手長海老をにらみつけた。



 ぷりぷりの大きな海老にしてくれればいいのに、なぜこんなやせ細った手長海老を出すのか。しゃぶれば美味しいだろうけれど、手づかみはダメだろう。


 リリーの知識のどこを掘っても、淑女がしゃぶっていい食べ物など、マナーにうるさい席には存在しない。



 しかも海老の身は殻から外してない。おじ様が出してくれる時は、ぷりぷりの大きな海老でも、あらかじめ一口大に切り分けてあり、フォークだけで食べられる。ナイフは軽く添える格好でいい。


 この貧弱な手長海老をナイフとフォークでどう食べれば、上品に見えるのか。むしろこれは魚介類の煮込みスープの具として出されたら、食べなくていいものでは。


 私が女主人だったらこんなの出さない、絶対に。リリーは暗澹たる心持ちになった。



 女主人リリーのテーブルは、平民ばかりが八人。皆学院に通わせる程度には裕福でも、子供にフルコースを食べさせるような家ではないと思う。 


 それは、ずらりと並んだカトラリーに緊張して生唾を飲みこんだ男子や、テーブルナプキンを広げるタイミングに悩んでいる女子を見てもわかる。


 リリーも、いつもおじ様がナプキンを膝に広げてくれるので、自分でするのだとは思わず、つい待ってしまって出遅れた。女主人なのに。



 ギラリと光を反射して威圧するカトラリーに怖気づいた子には「一皿ごとにお出しする余裕が無いので、先に並べております。外から内へとお使いくだされば良いようにはしてありますけれど、どうぞお好きにお使いになって。いつでも代わりはお持ちします」と、給仕にも聞こえるように、声を掛けた。



 そして、先にパンをテーブルに出してあるのは「引っ掛け」だと思う。手持ち無沙汰だったせいか食べ始めてしまった子には「すぐにつまめるものをご用意すべきでした。お許しになって、今運ばせますわ」と止めて、にっこりとして見せる。


 そのまま、目配せで呼びつけた給仕に「クラッカーにクリームチーズでかまわない。上にローズマリーでもほんの少しのせてくれたら最高だけど、何より早く出して。今すぐによ」

坊ちゃまエドモンドのように有無を言わさず命じた。


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