オーツ先生、聖人を語る・2
一応聞いておこうと思う。
「聖人になる為の条件は?」
「奇跡二種なのは同じだけれど、『癒し』はひとつあればいいの。後は人のためになる力を発揮する。そうね、塩水を真水に変えたり、御札で虫害を防いだり、天災を予知するものいいわね」
大きな規模では難しいが、異能持ちなら、探せば近い能力を持つ人が見つかりそうな事例だ、とリリーには思える。異能持ちより学者の方が適切かもしれない。
「精神系の異能と聖なる力は、どう違うの?」
身を乗り出して尋ねると、先生はもったいぶって体の前で祈りの形に指を組んだ。
「私の見解によれば――同じものよ。使い方が違うだけ。公国では力全体を伸ばす教育が確立しているけれど、王国には『異能』という発想自体がないから、自己流で能力の一部だけが肥大化するのでしょ」
疑問がとけたと思うリリーの頭を、オーツ先生が楽しげに撫でる。
「私やアイアなら、すぐに聖人になれるわ。ちょっとした工夫は必要で、力の使い所は狙わなくちゃならないけど。公国が住みにくくなったら、王国で聖人になって人生やり直すのも有りよねえ」
住みにくくなるような何をするつもりなのだろう。いかにもな遠い目つきが、物騒な悪戯をしそうに見える。
「カミラは? カミラも聖人になれる?」
異能は個性による差が大きいので、相対評価での成績はつけ難い。常々オーツ先生はそう公言している。
カミラは人の気持ちをほぐすのがうまい。そして心地よいと感じさせる声質で主張を薄く広く伝えることができる。為政者や聖職者が欲しがる資質らしい。
「使い方によってはね。かなりの演出が必要だけど、彼女の力は宗教的には魅力あるものだから」
つまり後ろでオーツ先生が糸を引けば、だ。
「どう? 聖人になって聖女の鼻を明かしたくなった? 『あんたみたいなエセ聖女とは違うのよ』って、実力を見せつけてやる?」
指の関節を鳴らす仕草で、楽しげにそそのかすオーツ先生に、急いでお断りをする。
「しない、しない」
リュイソー聖女に何かされたわけでもないのに、全然必要じゃない。むしろ言い掛かりをつけるようなものだ。
「あら、そ。残念」
少しも残念そうではなく「うっふ」と笑っているけれど、ホッとしても、油断は禁物。オーツ先生は、どこまで本気か分からないところがあるから。
「なあに? アイア」
「なあんにも」
パチパチと瞬きをしてにっこりする先生に、リリーも「うふふ」と笑い返す。
「気が変わったらいつでも言ってね。『アイアこそが歴代最高の聖人だ』と言わせてみせるわ」
オーツ先生の決意表明を受けて「その際には頼りにします」有り得ないけれど。と、リリーは会話を締めくくったのだった。




